恋する王女 6
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と、ちょっとしたくだらないやり取りの末、わたしは無事にダヴィドおじいちゃんから花束に永久保存の魔法をかけてもらって部屋に帰った。
わたしとレーヌが出かけている間に荷物が運び出されたのか、部屋の中はがらーんとしている。
ずっと暮らして来たわたしの私室。
わたしがシャルルと結婚した後も、この部屋はずっと取っておいてくれるとお父様が言っていたけれど、やっぱり荷物を運び出すと変な感じよ。自分の部屋が自分の部屋じゃなくなったみたいに見えるの。
ベッドとか棚とかソファとか、大きな家具はそのまま残されているけど、やっぱりちょっと違うのよ。
棚の中にあったものはなくなって、ソファに置いてあったお気に入りのクッションもない。ベッドの枕元に置いていた子供の頃にお母様にもらったクマのお人形もないの。
……シャルルのお家に移り住むのは嬉しいけど、ちょっとだけ寂しいわ。
わたしはベッドの縁に腰かけると、ゆっくり部屋の中を見渡す。
「八歳の時に子供部屋からここに移ったから、十年もここで過ごしてきたのね」
「そうですね。エドウィージュ様はあまり模様替えをなさいませんから、雰囲気ががらりと変化することもございませんでしたし……やはり、寂しいですか?」
「ちょっとね。でも、きっとこれが大人になるってことなのよ」
わたしはすっかり大人なのに、末っ子ってこともあって、家族みんなが子ども扱いするの。でも、もう子ども扱いはされないわ。だって婚約者の家にお引越しするのよ? もう親元で暮らすひな鳥じゃないの。
「さあエドウィージュ様、そろそろお仕度をなさいませんと」
「そうだったわ」
今日の夜は、北の国境の防衛に送り出す魔法師団の魔法使いたちの激励パーティーがあるの。
わたしはもちろん参加出し、シャルルも来るわ。
だけど、明日の出発は早いから、シャルルたち魔法師団の魔法使いたちは、お父様にご挨拶をしたらすぐにいなくなっちゃうの。
シャルルとの初めてのダンスはまたの機会に持ち越しよ。
わたしはダヴィドおじいちゃんに永久保存の魔法をかけてもらった花束を机の上に置くと、レーヌに手伝ってもらってパーティー用のドレスに着替えた。
今日は大人っぽいデザインの、濃い紫色のドレスにするわ。シャルルの髪が紫色だからそれに合わせるの。
ふわふわの髪も編み込んでもらってまとめてもらい、オニキスの髪飾りで留めてもらった。
「レーヌ、ヒールの一番高い靴を履きたいわ」
「それはやめましょう。ヒールの高い靴を履いて、足をひねったじゃないですかエドウィージュ様」
「半年も前のことでしょう?」
「半年しか、ですよ。絶対またやりますって」
高いヒールの靴はレーヌが許可を出してくれなくて、仕方がないからほんのちょっとだけヒールがある靴を履くことになった。
「ねえレーヌ、少しくらいシャルルとお話しする時間はあるかしら?」
「どうでしょうか。明日の準備で慌ただしいので、あんまりゆっくりはしていられないと思いますよ」
だったら、我儘な言えないわね。
北の国境には戦争をしに行くわけじゃなくて、戦争にならないように防衛を強化しに行くだけだ。
とはいえ、しばらくは常駐してあちらを牽制するとともに動きを監視するから、行けば何事もなくとも一年くらいは帰ってこないという。
一年も会えないから、せめて十三年の空白を少しでも埋めるためにお話ししたかったんだけど、シャルルが帰ってからのお楽しみに取っておくわ。
大丈夫、シャルルが帰ってきたらこれ以上延期されずに結婚できるはずだもの。
時間になったら、レオンスお兄様が迎えに来た。
「いいかエジュ。寂しくても泣くんじゃないぞ」
「お兄様ったら。いくらわたしでも泣いたりしないわよ」
だって、泣いたりしたらシャルルが困っちゃうでしょ?
わたしは未来の妻として、未来の夫の安全と活躍を祈りながら待つ大人の女になるのよ。きりっとね!
表情を引き締めて見せると、どういわけかレオンスお兄様がとても同情的な目をした。
「無理しなくていいんだぞ」
「無理してないわよ」
「よしよし」
お兄様に頭を撫でられて、わたしは納得がいかなくてムッと口をへの字に曲げる。
……なんできりっと顔をしたら慰められるの⁉
王族の控室に到着して待っていると、三十分もしないうちに入場の時間になった。
今日のパーティーは少し早い時間からはじまるの。遅くなったら、明日出発する魔法師団の魔法使いたちが大変だからね。
レオンスお兄様にエスコートされて王族席に着席する。
最後にお父様たちが入場すると、凱旋パーティーの時と同じように、ファンファーレが鳴って魔法師団の魔法使いたちが入場した。
先頭はやっぱりシャルルよ。ひときわ背の高い彼が颯爽とローブの裾をなびかせて歩いてくるのはカッコいいわ。……相変わらずフードを目深にかぶっていた顔は見えないけど。
魔法師団の魔法使いたちが入場すると、その場に跪く。
お父様が激励の言葉をかけて、シャルルがそれに答える。
本当はわたしも声を掛けたいけれど、ここはぐっと我慢よ。
寂しいけれどそれを隠して微笑んで見送る、理解のある妻(未来)になるの。
と、お父様とのやり取りを終えたシャルルが、ちらりと顔を上げた。
フードをかぶっているからわからないけれど、なんだかわたし、すっごく見つめられている気がする。
……きっと、わたしの顔を目に焼き付けようとしてくれているんだわ!
そうに違いない。
わたしは浮足立って、でも頑張ってきりっと顔を作った。
……ちょっとくらい手を振ってみてもいいかしら? 小さく振るくらいならきっと気づかれないわよね? ね? いってらっしゃいと声を掛けられないんだもの、せめてそのくらい……あっ!
わたしが勇気を出して手を振る前に、シャルルがまた視線を下げてしまった。
宰相が魔法師団の魔法使いたちの退出を告げると、シャルルたちが立ち上がる。
……ひどいわ宰相! もう少しっ! あと五分でいいからっ!
早すぎる。愛する夫(未来)との別れをもう少し惜しませてちょうだい!
……ああ、シャルルが行っちゃうわ……。
食い入るように見つめる先で、シャルルが踵を返して去っていく。
明日の早朝出発で、お見送りにはいけないから、今度シャルルに会えるのは彼が帰ってきた日。
大丈夫、十三年も片思いを続けたんだもの、あと一年くらい待てるわ! きっと!
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