第53話 --子供達の描く未来--
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和ら木の昼。
窓の外では青空が広がり、春風が花の香りを運んでいた。
三郎はカウンターに新聞を置き、湯気立つポットを傾ける。
カリス:「今日の新聞、見ましたか? リトくんの特集です!」
「おお……あの“小さな絵描き”が、とうとう新聞に?」
ワタまる:「ぽふー!(天才誕生!)」
三郎は微笑みながら紙面を広げた。
そこには、大きな見出しと共に、リトが仲間たちと描いた巨大な壁画の写真が載っていた。
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【街の目新聞・第198号】
「絵がつなぐ未来
――子どもたちが描いた“平和のかたち”」
今、世界中の街角や学校に、ひとつの波が広がっている。
きっかけは、一人の少年――リト・ハートフィールド。
数年前まで“下手くそだ”と笑われていた少年は、
今、世界中の子どもたちの心をつなぐ象徴になっている。
リトが描いたのは、剣でも、国旗でも、英雄の像でもない。
笑い合う人々、寄り添う魔獣、空を見上げる摩族の子ども。
その絵には、誰の支配もなく、ただ“共にある”光景があった。
その絵が和平協定の準備委員会に届いたのは、偶然ではなかった。
やがて子どもたちは各地で自分たちなりの“平和の絵”を描き始め、
詩を書き、物語を送り、
大人たちはその想いを束ねるように、それらを一冊にまとめた。
――『わたしたちの明日』。
それは国境を越え、昼の民と夜の民、
そして摩族(※摩は本来“摩訶不思議”に由来)すら感動させた。
和平交渉の最終日。
議場には子どもたちの絵が飾られ、詩が読み上げられた。
“戦わない日が、毎日つづきますように。”
“風が笑って通り抜ける世界でありますように。”
涙を流した者もいた。
多くの代表たちは、その場で静かに立ち上がり、互いに握手を交わした。
“この想いに応えよう。未来を、子どもたちの絵のようにしよう。”と。
絵は国を動かし、詩は心を結び、物語は未来を描いた。
リトはその日の夜、こう語ったという。
「僕の絵は、誰かに笑ってもらえたらそれでいい。
でも……その笑顔が続くように、
大人たちが頑張ってくれるなら、もっと嬉しいです。」
小さな夢の絵描きが描いた世界は、
やがて本当の“未来の設計図”になった。
記:アルベルト・シュナイダー
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三郎は新聞をそっと閉じ、静かに目を細めた。
「……あのリトくんが、世界を動かす一筆を描くとはね。」
カリス:「ええ。あの時、三郎さんが“君の絵は心に届く”って言ってましたもん。」
ワタまる:「ぽふー!(今度は壁サイズだね!)」
「絵を描くって、誰かの未来を信じることでもあるんですよ。」
三郎は微笑みながら湯を注いだ。
その時、ドアベルが鳴いた。
ちりん――。
入ってきたのは成長したリトだった。
背丈は伸び、手には大きなスケッチブックを抱えている。
リト:「……三郎さん、見てください。
これ、子どもたちみんなで描いた“未来の街”なんです。」
カリス:「わぁ……夜の民も、摩族も、人族も一緒に描いてるんですね!」
リト:「はい。もう、“どっちの国の空”かなんて誰も言わないんです。
みんな、自分の空を描いてる。それが、いちばんきれいで。」
三郎は微笑み、ゆっくり頷いた。
「……いい絵ですね。誰もが同じ景色を見ようとしてる。」
リトは照れくさそうに笑う。
リト:「でも、まだ描きかけなんです。
これからも世界が変わっていくから、完成はまだ先です。」
「なら、きっといい絵になりますよ。」
三郎の言葉に、リトは胸を張って頷いた。
カリス:「世界中に“未来を描く勇気”があふれて来ましたね!」
ワタまる:「ぽふー!(変わり続ける、それが未来!)」
笑い声がこぼれ、和ら木に春風が吹き抜けた。
その風は、リトのスケッチブックのページをめくり、
そこに描かれた“まだ見ぬ明日”を、そっと照らしていた。




