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第52話 --境を越えた声--

ご覧いただきありがとうございます。

1日2話以上の更新を目指しています。

多くの人に届くように、評価だけでもよろしくお願いします。



和ら木の昼。

窓の外では春の風がやさしく吹き、街の木々が淡く芽吹いていた。

三郎はカウンターで紅茶を注ぎながら、新聞受けの音に気づく。


「……今日も誰かの活躍記事、でしょうか。」


カリスがひょいと現れ、胸を張って差し出した。

カリス:「はいっ! 今回は“ミナさん”です!」


ワタまる:「ぽふー!(魔獣の子!)」


三郎は思わず微笑んだ。

「……そうですか。あの怯えていた少女が、もう新聞に載るようになったんですね。」


ゆっくりと紙面を開く。

そこには、堂々とした姿で微笑むミナと、彼女の隣に静かに伏せる黒い魔獣の姿が写っていた。

見出しには、こう書かれている――



---


【街の目新聞・第192号】

「境を越えた声

 ――少女ミナが伝えた“共に生きる”という選択」


 かつて“魔獣と心を通わせる少女”と呼ばれたミナ・エインズ。

 今では、人と魔獣の橋渡しをする“共話士きょうわし”として、

 昼の民・夜の民を問わず各地を巡る存在となっている。


 彼女が伝えているのは、ただの訓練法でも、魔獣の扱い方でもない。

 ――“どう向き合うか”という、心の在り方だった。


 ミナの活動は、魔獣被害の多い地域から始まった。

 人族の村では恐れと偏見が根強く、

 魔獣を「摩族が送り込んだ脅威」と語る者までいた。

 彼女が語り始めると、最初は必ずといっていいほど疑いの声が上がった。


 「魔獣は敵だ」「摩族の手先だ」「和解なんて幻想だ」と。


 だが、ミナは一歩も引かなかった。


 「魔獣は、誰のものでもありません。

  彼らは“自然”の声そのものです。

  傷つけられれば怒り、安心すれば寄り添う。

  摩族の側に見えるのは、彼らが“聴く”種族だから。

  人族が被害に遭いやすいのは、耳を閉ざしてしまったからです。」


 その言葉は静かに、けれど確実に人々の胸に届いた。

 彼女は摩族の集落にも足を運び、

 夜の民の長老たちと協力して“共棲区きょうせいく”の設立を進めた。

 そこでは魔獣が自然の中で暮らし、人と交流できる試みが行われている。


 初めは警戒していた村人たちも、

 森を焼かずに済むようになったことで、徐々に理解を示した。

 魔獣の動きを読むことで作物の周期を予測し、

 季節風の変化を察知して災害を防ぐ“共感気候術”も生まれた。


 ――恐れていた存在が、共に生きる教師になったのだ。


 その影響はやがて、和平協定の会議にも及んだ。

 「種を超えた理解は可能だ」との実例として、

 ミナは摩族代表団の推薦で特別顧問として招かれた。


 会議では、以前まで「境界防衛条項」と呼ばれていた項目が、

 “共生交流条項”へと改訂されるきっかけになったという。


 彼女はこう語っている。


 「人も魔獣も、摩族も。みんな違って、怖い。

  でも、“わからない”まま離れるより、

  “知って、歩み寄る”ほうがずっと強いと思うんです。

  心は、境を越えて届くから。」


 その言葉に誰もが静かに頷いたという。


記:アルベルト・シュナイダー

※摩族の摩は本来“摩訶不思議”に由来


---


三郎は新聞を閉じ、深く息をついた。

「……境を越えて届く、か。ミナさん、本当にやり遂げましたね。」


カリス:「はい。彼女の教えは、“理解する勇気”の象徴になりましたね。」


ワタまる:「ぽふー!(わからなくても、寄り添えば伝わる!)」


三郎は頷き、カップを見つめながら呟いた。

「“怖れ”を分け合うことができたなら、それはもう平和の始まりですよ。」


カリスは微笑んで目を細めた。

「きっと、魔獣たちも今ごろ“安心の総量”を増やしてますね。」


「……ああ。あの時、避けていた川に橋をかけた少女が、

今は世界に橋を架けている。ほんと、立派な大人になりましたね。」


ワタまる:「ぽふー!(魔獣と人、どっちも友だち!)」


薪がぱちりと弾け、優しい風が鈴を鳴らす。

その音は――人と魔獣、昼と夜の民のあいだを結ぶ、

静かな“共生の調べ”のように響いていた。



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