第4話 --秋の終わり、火と畑と--
窓の外は、刈り取りの終わった畑が広がっていた。
冷たい風が吹き抜け、藁束の香りが店の中にまで届く。
遠くから、村人が藁を積み上げる音が聞こえてきた。
三郎はカウンターを磨き、マグを並べていた。
もうこの光景にもだいぶ慣れてきた。
ふわりと光が現れ、カリスが姿を見せた。
カリス:「今日は少し難しい相談です。村の鍛冶場と畑、どちらも大忙しで火花が散っているとか。」
「火花……物騒ですね。」
カリスはにっこり笑う。
カリス:「言葉のあやです。どちらも本気だからこそ衝突してしまうのです。」
木鈴がからんと鳴り、扉が開いた。
煤けたエプロンをつけたドワーフと、泥のついたブーツの獣人が入ってきた。
カリス:「こちらは鍛冶場の親方グラムさん。そしてこちらが畑の管理をするルカさん。」
三郎は軽く会釈した。
「僕は三郎といいます。ここ“和ら木”でお話を伺います。どうぞ座ってください。」
二人は向かい合って腰を下ろしたが、腕を組んだまま視線を合わせない。
グラム:「鍛冶場の火を止めろと、この若造が言う。」
ルカ:「親方こそ、畑を後回しにするから!」
三郎は反射的に口を開いた。
「じゃあ、時間割を作ってシフト制に――」
二人の眉が同時にひそまり、空気がぴんと張りつめる。
グラム:「火を落とせば再点火に半日かかる。冬が来るんだぞ。」
ルカ:「畑は霜が降りる前に収穫しないと、今年の食べ物がなくなるんです。」
三郎の背中に冷や汗が流れた。
「……すみません、決めつけました。もう少し詳しく聞かせてください。」
三郎は紙を広げ、作業を書き出すよう促す。
火入れ、金床を打つ回数、刃物の仕上げ。
畑の収穫、葉物、根菜、保存作業。
紙はびっしり埋まり、二人も少し落ち着いてきた。
三郎は指先で紙をなぞりながら尋ねる。
「グラムさん、火を落とさずに休める方法ってありますか?」
グラムはしばらく考え、口を開いた。
グラム:「……炉の脇に小さな火を残しておけば、完全に落とさずに済むかもしれん。」
三郎はうなずき、ルカに目を向ける。
「ルカさん、今一番急ぎなのはどれです?」
ルカ:「葉物ですね。霜が降りたら一晩で駄目になります。」
「じゃあ、まず葉物から優先して収穫して、根菜は後回しにできる?」
ルカは少し考えてうなずいた。
ルカ:「……できます。そうすれば、人数が少なくても回せます。」
グラムが腕を組んだまま、ぽつりとこぼした。
グラム:「だったら、葉物をやってる間に俺は炉の火を落ち着かせて、夜に道具を仕上げる。」
ルカの表情が少し和らいだ。
ルカ:「……それなら、お互い休めますね。」
三郎は笑った。
「じゃあ協力デーを作りましょう。葉物の日と鍛冶の日を決めて、誰でも参加できる日をつくる。来られなくても責めない、できる人からやる。」
二人は顔を見合わせ、ようやく小さく笑った。
グラム:「それならやれる。」
ルカ:「僕も、みんなに声をかけます。」
張りつめていた空気がやわらかくなり、和ら木の灯りが温かく揺れた。
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後日談
数日後、夕方の木鈴が鳴った。
グラムとルカは前より明るい顔で店に入ってきた。
ルカ:「協力デー、大成功でした。葉物も間に合いました。」
グラム:「火も絶やさずに済んだ。炉の脇火の案、助かった。」
三郎は胸が熱くなった。
「よかった……。次は僕も畑に行かせてください。」
ふわりと光が舞い、カリスが現れた。
カリス:「本日の甘甘ポイント、+40。ただし、最初の即答は減点−5です。」
三郎は苦笑して頭をかいた。
「やっぱり……言い切りすぎましたね。」
カリスはにこやかに目を細める。
カリス:「でも、最後まで聞いて一緒に答えを見つけられましたね。それが大事です。」
三郎は軽くうなずく。
「次は、最初から聞き役に回れるようにします。」
カリスは読者に向き直り、柔らかく微笑んだ。
カリス:「皆さまも、急いで結論を出してしまったこと、ありませんか?
感想やお悩みお待ちしています。次の席に座るのはあなたかもしれません。」




