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第36話 --魔王とは戦わない勇者--

ご覧いただきありがとうございます。

1日2話以上の更新を目指しています。

多くの人に届くように、評価だけでもよろしくお願いします。



夜明け直後の和ら木。

窓の外では薄明の風が吹き、街の屋根が静かに光を帯び始めていた。

三郎がカウンターに置いてある『街の目新聞』を手に取り、深呼吸をした。


「……なんだか今日は、いつもより紙が分厚い気がしますね。」


カリスは湯気の向こうで、にやりと笑う。


カリス:「そりゃあ当然です。“勇者パーティー特集号”ですから。アルベルトさん、張り切ってますよ。」


ワタまる:「ぽふー!(大作の予感)」


三郎はゆっくりと紙面を開いた。



---


【街の目新聞・特集号】

「夜明けを運んだ四人

――勇者たちの戦いが、平和のかたちを変えた」


夜の民である摩族と昼の民である人族、その境を脅かしていた“魔獣地帯”。

そこは、長年どちらの国からも見捨てられた無法地帯だった。

だが、そこに現れたのが――勇者アレン、剣士ロイク、僧侶サム、魔法使いミラの四人である。


彼らは、いかなる国にも属さず、ただ「守りたいから守る」と言って前線に立った。少しばかりの報酬だけで。

魔獣を討伐し、村を守り、行商人の道を開く。

その姿はやがて“国境の灯”と呼ばれ、多くの民の心に火をともした。


だが、注目すべきはその“戦い方”ではない。

彼らが広めたのは、“戦わなくても守れる仕組み”だった。


勇者アレンはこう語る。

「戦うのは、最後の手段でいい。

 本当に守りたいのは、戦わずに笑っていられる日常だから。」

と、その考えに至るまでには数多くの苦難があった。

余裕のない討伐が続く中で、メンバーによる反省会を始めることに。

すると余裕のなかった戦闘に余裕が生まれ、休息の時間が出来た。

休息の時間はやがて勇者パーティーと民との交流の時間となった。

その中で本来必要であったのは、魔獣の殲滅ではなく、魔獣との棲み分けであった。

反省会は住民たちとも開かれるようになったのだった。

その中で、魔獣の性質にも理解が深まってきた。

ただ粗暴なだけではなかったのだ。


そこから、剣士ロイクは、訓練場を開いて自衛の力を増しながら、魔獣避けの柵の作り方を共に考え、

僧侶サムは負傷者の治療だけでなく、近隣の診療所を巡回治療しながら、祈りによる魔獣除けや、安寧の支援の輪を広げた。

そして、魔法使いミラは摩道具“光の灯台”を夜の民摩族とともに完成させ、

摩族と人族が共有できる初めての「安全地帯」を築いた。


その場所は、いまや両国の避難所、交易の拠点として栄えている。

誰もが安らげるその地は、後に“中立区アークフェリア”と呼ばれるようになった。


「守られている」という安心感は、やがて人々の心の形を変えていった。

心配が減ると、人は他者の声を聴く余裕を持つ。

そして、話し合うための“時間”がまた生まれていった。


この“時間”こそが、『世界の反省会』である和平交渉の第一歩となったことは間違いないだろう。


誰かが血を流すことでしか得られなかった安全を、

言葉と協力で築ける――その実例を、勇者たちは示してくれたのだ。その希望の光は、これからも輝き続けていくのだ。


記 アルベルト・シュナイダー

(特別寄稿:王立通信社/夜の民記者組合合同掲載)

※摩族の摩は元来“摩訶不思議”に由来



---


三郎は新聞を静かにたたみ、しばらく言葉を探した。


「……あの四人、ほんとにやりきったんですね。」


カリスは少し目を細め、笑みを浮かべた。


カリス:「ええ。戦い方が変わったというより、“守る”という概念が変わりましたね。」


「心配が減ると、人は聴くようになる……。

 つまり、平和って“安心の総量”みたいなものなんですかね。」


カリス:「そうです。争いは恐れから生まれ、恐れは不安から生まれる。

 その不安を減らす人がいれば、世界は自然と穏やかになります。」


ワタまる:「ぽふー(勇者=安心製造機!)」


三郎は笑ってカップを手に取る。


「彼らのしたことは、戦わない勇者の証明ですね。

 戦いを終わらせたのは、剣での戦果じゃなく“心配を減らした”ことだったんだ。」


カリスは頷き、ふっと目を閉じる。


カリス:「そうですね。彼らの作った“中立地帯”は、

 いまや和平協定の会場を支える基盤にもなっています。

 夜の民も人族も、初めて“同じ灯りの下”で眠れるようになったんです。」


三郎:「……それを見届けられたのは、幸せなことですね。」


カリス:「ええ。未来視の中でも、あの夜はまぶしいほど明るかった。」


風が窓を揺らし、新聞の端がひらりと舞う。

その紙面には、小さな特集欄が載っていた。


『“和ら木に通った者たちの声を募集中”

 --あの店が、私の始まりだった--』


三郎はそれを見て、照れくさそうに笑った。


「……まさか、和ら木が特集される日が来るとは。」


カリス:「あら、当然ですよ。“心を整える喫茶店”としてね。」


ワタまる:「ぽふ!(看板メニュー:和ら木ティー)」


「……そのネーミングはちょっとストレートすぎてね…。」


薪がぱちりと弾ける。

笑い声とお茶の香りが混ざり合い、

外の風がやさしく木鈴を鳴らした。


ちりん――。


世界中で今日も

“安心の総量”が増えている音なのだろう。



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