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第34話 --やりたい平和--

ご覧いただきありがとうございます。

1日2話以上の更新を目指しています。

多くの人に届くように、評価だけでもよろしくお願いします。



朝の和ら木。

木鈴がやさしく鳴り、いつもの風がカウンターをくすぐった。


三郎が新聞受けを開くと、一枚の『街の目新聞』が顔を出した。


カリス:「来ましたね。今回は――源さんですか。」


「町内会長になったあと、どうしてるんでしょうね。」


カリス:「それが……ずいぶん“立派な肩書き”になってますよ。」


三郎:「え……まさか。」 


カリス:「ふふ、読めば分かります。」



---


【街の目新聞・第88号】

「“やりたい”から始まった政治

 ――線を引く町内会長の軌跡」


あの男の信条は、最初から一つだけだった。

――やりたいことしかやらない。


町内会長として就任したあの男、源は、まず

“やらないリスト”を町内掲示板に貼り出した。

「私がやらないこと」

・夜遅くの無駄な会議

・誰かの愚痴大会

・誰も喜ばないイベント

その横には、もう一枚の紙。

「私がやりたいこと」

・子どもたちの笑顔が増えること

・高齢者が安心して暮らせること

・この街に、笑い声があること


最初は反発もあった。

「責任者がそんなこと言っていいのか」と。

だが、その男の責任と覚悟を知った者たちは

次第に“やりたくないこと”を誰かが代わりに引き受けたり、

「それなら自分がやりたい」と手を挙げる人が増えた。


「線を引いたら、人が集まったんですよ。」

源の言葉に、私は少し驚かされた。

だが確かに、線は壁ではなく“つながる場所”になっていた。


やがて彼の方針は町を超え、市に届く。

「強制ではなく共鳴で動く」――源のやり方を真似る行政職員が現れ、

会議の形が変わり、命令より相談が増えた。


さらにその流れは国政にも広がった。

源は『市民の声を直接聞く委員』として中央に招かれた。

それでも彼は言い切った。


「やりたくないことはやりません。

でも、みんなが“やりたい”と思えるように仕組みを作るのは、やってみたいです。」


国中の役人が凍りついたという。

だが、その一言をきっかけに、彼の周りに人が集まり始めた。

“やりたくない人に無理をさせず、やりたい人が助け合う”――

それが新しい協力体制の始まりだった。


そして、その文化が根付くにつれ、

人々は“やらされる戦い”に違和感を覚えるようになった。

「嫌なことは嫌だ」

「戦なんて、やりたくない」

そう口に出せる空気が生まれたのだ。


その流れが、のちに和平協定の“準備会議”を生む。

源が残した一言が議事録に記されている。


「やりたくない戦争なら、やらなければいい。

やりたい平和は、一緒に作ろう。」


その言葉は、国境を越えて広がり、

いまも各地の広場に刻まれている。


記 アルベルト・シュナイダー


---


新聞をたたむと、三郎は静かに息を吐いた。

「……あの“やらないリスト”が、まさか国の礎になるとは。」


カリスはくすっと笑って、マグにお茶を注いだ。

カリス:「線を引く勇気が、人をつなぐ線にもなったんですね。」


「ええ。最初はただの“都合のいい人”だったなんて信じられないですね。」


カリス:「人は、甘くなると、ちゃんと強くなります。」


「そうなんですよね。甘くなると強くなる。

甘くするには強くならないといけない。

どちらか先なのかは分からないけど、

これだけは相乗効果で強くなるんですよ。」


ワタまる:「ぽふー!(威厳のあるぽふ)」


三郎は笑いながら新聞を折り、棚にそっと置いた。

「……でも、あの人らしいですね。“やりたい”が原動力って。」


カリス:「そうですね。誰もが“やりたくない戦”を手放せたのは、

 きっと源さんが最初に“やりたくない”って言ってくれたからです。」


窓の外では、春風がやわらかく吹いていた。

その風は、どこかで新しい“やりたい平和”のための幕を開けているようだった。


「次は……誰の記事が、届きますかね…。」


「神様がハッピーエンドを保証する物語は楽しみしかないですからね!おかわり淹れてください!いや…楽しみにしててください!」


ちりん、と木鈴が鳴り、

パンの香りと一緒に、和ら木の朝が静かに流れていった。



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