番外編 --和平協定への道のり--
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和平協定成立までの道のり
【遥か昔】
昼の民(人族)と、夜の民(摩族)は、
本来は同じ大地から生まれた種だった。
しかし、太陽と月という異なる環境の下で暮らすうち、
価値観も、文化も、畏れの形も違っていった。
互いを「理解できないもの」として見始めたとき、
その違いは“境界”へと変わり、
やがて“戦火”になった。
神々は沈黙を保っていた。
ただ一柱――カリスだけが、滅びゆく未来を見た。
そして干渉を禁じられた掟を破り、
密かに「対話の種」をまこうと決めた。
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【数百年前】
戦争が常態化する。
誰もが「正義」を掲げ、誰もが「正義の被害者」になる。
夜の民は闇の支配者として恐れられ、
人の民は光の暴力者として憎まれた。
そしてついに、両国は国交どころか、
互いの存在そのものを否定するまでに至った。
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【数十年前】
長い戦争の果てに、両国は疲弊し、
人々の間に「戦う理由」を見失う者が増えていった。
それでも憎しみだけは形を保ち続け、
昼の民と夜の民は、互いの子どもをも忌み嫌うようになる。
しかし、その頃から、戦う理由を見失う者たちによって各地で小さな“対話”が始まり出した。
戦場跡に花を植える者、異種をかばう者、
昼の民と夜の民のあいだに生まれた子を育てる家族。
誰もそれを「平和」とは呼ばなかったが、
確かに風は変わり始めていた。
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【十数年前】
神カリスは未来視の中で見た。
――このままでは、和平の席は永遠に現れない。
そのために必要なのは「理解者」だった。
彼女は異世界から一人の人間を選び、
現世界に導いた。
その人物こそ、羽藤三郎であった。
昼の民にも夜の民にも肩入れせずに理解できる、
完全なる第三者が必要だった。
彼女は彼のために“和ら木”という店を創り、
昼の民でも夜の民でも誰もが
安心して“語れる場所”を作った。
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【和ら木の時代】
“和ら木”はやがて、噂となって広がる。
「話を聴いてもらえる店」「心が軽くなる場所」。
そこに集まる人々が、互いの違いを理解し始め、
小さな変化が国や街の形を変えていく。
そして――
その変化は“風”のように広がり、
「会話のための会場」を作り出した。
それが、後に“和平協定会場”と呼ばれる場所である。
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【現在】
カリスの未来視の調整は限界を迎える。
干渉を重ねるたび、彼女の存在は薄れていった。
しかしその代わりに、世界は自ら動き始めた。
昼の民と夜の民の代表が、
はじめて同じ机を囲む。
そこに飾られたのは、かつて戦場に植えられた花。
そして、風が吹くたび、
誰かの声なき祈りが重なっていった。
その風の中心に、三郎がいたかどうかを
知る者はいない。
ただ、人々の心に「和ら木」という名前だけが
静かに残っていた。
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和平協定の内容
(要約)
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第一条 ――すべての命は、昼と夜のあいだに在る
昼の民と夜の民の命は、どちらもこの星に生きる等しい存在である。
光と闇は相反するものではなく、互いを映すためのものとする。
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第二条 ――憎しみの継承を終える
戦争の正当化、報復、償いを目的とした行為を禁ずる。
歴史は忘れられてはならないが、再び燃やしてはならない。
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第三条 ――学びと文化の共有
教育と芸術は両国の共通財産とする。
学びの場には種の隔たりを設けず、
音楽・言葉・技術を共に磨く共育とする。
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第四条 ――命の花の儀
戦場跡地に花を植える行為を「命の花の儀」とし、
毎年その花を和平の象徴として捧げる。
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第五条 ――風の祈り
声を失った者、言葉を持たぬ者も、
祈る権利を持つ。
その沈黙を“風”として受け止め、
毎年、協定記念日に祈りを捧げる。
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第六条 ――和ら木の理念
「誰かを責めず、誰かを聴く場所」を各地に設け、
民の意見を自由に交わせる対話の場とする。
その名を“和ら木の家”と呼ぶ。
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第七条 ――神の不干渉
神・精霊・魔法は、この協定の行方に直接関与してはならない。
ただし、“風”としての導きは認められる。
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第八条 ――未来の子どもたちへ
この協定は、戦を知らぬ子どもたちの笑顔を守るために存在する。
彼らが笑う日こそ、和平が完成した日とする。
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こうして、長く続いた昼と夜の争いは終わりを迎えた。
人と夜の民は、違いを消すことなく共に生きることを選んだ。
その根にあるのは、
「誰かを理解したい」と願った、たった一人の人間の言葉だった。
今もどこかで、和ら木の看板が風に鳴っている。
その音を聴いた者は、
ほんの少しだけ優しくなれるという。




