表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/66

番外編 --和平協定への道のり--

ご覧いただきありがとうございます。

1日2話以上の更新を目指しています。

多くの人に届くように、評価だけでもよろしくお願いします。



和平協定成立までの道のり


【遥か昔】


昼の民(人族)と、夜の民(摩族)は、

本来は同じ大地から生まれた種だった。

しかし、太陽と月という異なる環境の下で暮らすうち、

価値観も、文化も、畏れの形も違っていった。


互いを「理解できないもの」として見始めたとき、

その違いは“境界”へと変わり、

やがて“戦火”になった。


神々は沈黙を保っていた。

ただ一柱――カリスだけが、滅びゆく未来を見た。

そして干渉を禁じられた掟を破り、

密かに「対話の種」をまこうと決めた。



---


【数百年前】


戦争が常態化する。

誰もが「正義」を掲げ、誰もが「正義の被害者」になる。

夜の民は闇の支配者として恐れられ、

人の民は光の暴力者として憎まれた。


そしてついに、両国は国交どころか、

互いの存在そのものを否定するまでに至った。



---


【数十年前】


長い戦争の果てに、両国は疲弊し、

人々の間に「戦う理由」を見失う者が増えていった。

それでも憎しみだけは形を保ち続け、

昼の民と夜の民は、互いの子どもをも忌み嫌うようになる。


しかし、その頃から、戦う理由を見失う者たちによって各地で小さな“対話”が始まり出した。

戦場跡に花を植える者、異種をかばう者、

昼の民と夜の民のあいだに生まれた子を育てる家族。

誰もそれを「平和」とは呼ばなかったが、

確かに風は変わり始めていた。



---


【十数年前】


神カリスは未来視の中で見た。

――このままでは、和平の席は永遠に現れない。

そのために必要なのは「理解者」だった。


彼女は異世界から一人の人間を選び、

現世界に導いた。

その人物こそ、羽藤三郎であった。

昼の民にも夜の民にも肩入れせずに理解できる、

完全なる第三者が必要だった。


彼女は彼のために“和ら木”という店を創り、

昼の民でも夜の民でも誰もが

安心して“語れる場所”を作った。



---


【和ら木の時代】


“和ら木”はやがて、噂となって広がる。

「話を聴いてもらえる店」「心が軽くなる場所」。

そこに集まる人々が、互いの違いを理解し始め、

小さな変化が国や街の形を変えていく。


そして――

その変化は“風”のように広がり、

「会話のための会場」を作り出した。


それが、後に“和平協定会場”と呼ばれる場所である。



---


【現在】


カリスの未来視の調整は限界を迎える。

干渉を重ねるたび、彼女の存在は薄れていった。

しかしその代わりに、世界は自ら動き始めた。


昼の民と夜の民の代表が、

はじめて同じ机を囲む。


そこに飾られたのは、かつて戦場に植えられた花。

そして、風が吹くたび、

誰かの声なき祈りが重なっていった。


その風の中心に、三郎がいたかどうかを

知る者はいない。

ただ、人々の心に「和ら木」という名前だけが

静かに残っていた。



---


和平協定の内容

  (要約)



---


第一条 ――すべての命は、昼と夜のあいだに在る


昼の民と夜の民の命は、どちらもこの星に生きる等しい存在である。

光と闇は相反するものではなく、互いを映すためのものとする。



---


第二条 ――憎しみの継承を終える


戦争の正当化、報復、償いを目的とした行為を禁ずる。

歴史は忘れられてはならないが、再び燃やしてはならない。



---


第三条 ――学びと文化の共有


教育と芸術は両国の共通財産とする。

学びの場には種の隔たりを設けず、

音楽・言葉・技術を共に磨く共育とする。



---


第四条 ――命の花の儀


戦場跡地に花を植える行為を「命の花の儀」とし、

毎年その花を和平の象徴として捧げる。



---


第五条 ――風の祈り


声を失った者、言葉を持たぬ者も、

祈る権利を持つ。

その沈黙を“風”として受け止め、

毎年、協定記念日に祈りを捧げる。



---


第六条 ――和ら木の理念


「誰かを責めず、誰かを聴く場所」を各地に設け、

民の意見を自由に交わせる対話の場とする。

その名を“和ら木の家”と呼ぶ。



---


第七条 ――神の不干渉


神・精霊・魔法は、この協定の行方に直接関与してはならない。

ただし、“風”としての導きは認められる。



---


第八条 ――未来の子どもたちへ


この協定は、戦を知らぬ子どもたちの笑顔を守るために存在する。

彼らが笑う日こそ、和平が完成した日とする。



---



こうして、長く続いた昼と夜の争いは終わりを迎えた。

人と夜の民は、違いを消すことなく共に生きることを選んだ。


その根にあるのは、

「誰かを理解したい」と願った、たった一人の人間の言葉だった。


今もどこかで、和ら木の看板が風に鳴っている。

その音を聴いた者は、

ほんの少しだけ優しくなれるという。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ