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第31話 --カリスのシン異世界講座--

ご覧いただきありがとうございます。

1日2話以上の更新を目指しています。

多くの人に届くように、評価だけでもよろしくお願いします。



和ら木の夜は、驚くほど静かだった。

薪の音が、まるで時間を確かめるように小さく鳴る。

外には月があり、風があった。

ただの一夜――のはずだった。


ふわりと光が舞う。

カリスが現れた。

だがいつものような冗談めいた笑顔はなく、少しだけ寂しげだった。


カリス:「……三郎さん。1000点、貯まりましたよ。」


「1000点?」


カリスは少しだけ得意げに胸を張る。


カリス:「そうです。“甘甘ポイント”。でもあれ、実はちょっとした仕掛けなんです。」


「仕掛け?」


カリス:「ええ。“1000点”というのは、この世界で進められている和平協定の成功率です。」


三郎は、しばらく沈黙してカップを置いた。

「……和平協定って?」


カリスは苦笑しながら、指先で光を描きながら、説明を始めた。

宙に浮かぶ映像のように、二つの国が映る。

昼の民の国人族と、夜の民の国摩族。

長いあいだ戦を続け、今ようやく「話し合う」ことになった二つの国の話だった。


カリス:「ほんの少し前までは、その“話し合う席”すら存在しなかったんです。

でも、あなたが話した人たちが、それぞれ誰かを変えていって――

少しずつ、道がつながったんです。」


「……僕が何かをしたわけじゃないですよ。」


カリス:「そう思うでしょ? でもね、三郎さん。

あなたが“聴いた”ことが、どれほどの奇跡か、私は知ってます。」


「奇跡、ですか。」


カリス:「神でも、誰かの心をそのまま受け止めることはできません。

未来を変えるために私は“調整”をしてきました。

けれどそのたびに、存在が削れていく。

干渉すればするほど、この世界に留まれなくなるんです。」


三郎は、はっとして立ち上がる。

「じゃあ……カリスさん、まさか――」


カリスは笑って手を振った。


カリス:「ああもう、そんな深刻に言わないでください。

ちょっと“軽く”なってるだけです。ふわふわ~っと。ね。」


その声に、ほんの少しだけ震えが混じっていた。


「それでも……あなたは無理をしたんですね。」


カリス:「だって、見えたんですもの。

あなたが来て、和ら木ができて、

人と夜の民が少しずつ笑う未来が。

私には“未来を視る力”があります。

だから、あなたをこの場所に呼びました。」


「僕を……?」


カリス:「はい。あなたは別の世界から来た人。

元の世界のあなたの時間は止まっていると錯覚するほど遅くなっています。

でもここは、確かに流れている。

あなたの言葉が届けば、その波は元の世界にも伝わる。……だから、この店を作ったんです。

誰かを救うためじゃなく、誰かが話せる場所を作るために。」


三郎は静かに頷いた。

「和ら木は、そうして生まれたんですね。」


カリスはうれしそうに微笑んだ。


カリス:「そうです。

でも、あなたが思っているよりずっと“現実”です。

だってお茶をこぼせばちゃんと汚れるし、ワタまるも食い意地張ってますし。」


ワタまる:「ぽふー。」


思わず、二人の間にいつもの空気が戻る。


だが、次の瞬間――

カリスの輪郭が、ゆらりと揺れた。


三郎:「……カリスさん。」


カリス:「あ、やっぱりダメかも。

あはは、ちょっと影響を与えすぎちゃったみたいですね。」


「そんな笑い方、やめてくださいよ。」


カリスは、少しだけ目を伏せる。


カリス:「でもね、これで大丈夫。

もう、この世界は自分で歩けます。

昼の民も夜の民も、誰かを許せる力を持った。

あなたがそれを見届けてくれたから。」


三郎は静かに息を吸い、言葉を選んだ。

「……僕は、元の世界に戻されるんですか?」


カリス:「元の世界のあなたは、まだあの一日のままです。戻ることも、このまま残ることも、どちらもできます。残れば元の世界のあなたは居なくなってしまいますが、……まあ、どちらでも、私はかまいませんよ。」


「……あんまり神様っぽくないですね。」


カリス:「でしょ?」


そう言って笑う彼女の光が、少しずつ薄れていく。


カリス:「三郎さん、ありがとうございました。

あなたがいたから、私は最後まで“神様でいられた”気がします。」


「あなたこそ、最後までポンコツでしたね。」


カリス:「それ、褒め言葉ですよね?」


「もちろんです。」


ふたりの笑い声が、夜の和ら木に響く。

そして光が静かに消え、風が通り抜けた。


カウンターの上には、一枚の羽が落ちていた。

白く、かすかに温かい。


三郎はそれを拾い上げ、そっと胸にしまう。


ワタまるが「ぽふー」と鳴き、

灯りの火が、やわらかく揺れた。


外の風は、春の匂いを運んできていた。



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