番外編 --カリスの異世界講座--
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和ら木の夜。
カウンターに並ぶ皿を片付けながら、三郎はふと思い出したように問いかけた。
「そういえば……。この前、魔族の子がいたでしょう。あの子がいるなら、“魔族”っていう人たちもいるんですか?」
カリスはちょうど椅子に座り、お茶をすすっていた。
一瞬きょとんとしてから、ぱっと笑顔を浮かべる。
カリス:「ああ、その質問! 待ってました。“異世界講座”のお時間ですね!」
ワタまる:「ぽふー!(また始まった)」
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カリスは身を乗り出し、両手で空中に図を描くように広げると、映像が映し出された。
カリス:「魔族というのは、正確には“夜の民”と呼ばれる人たちです。もともと人族とは全然違う場所で進化してきた別の種族なんです。自然を畏れて尊敬する文化を築いたから、摩訶不思議な力――“摩力”と、とても馴染みやすい。」
三郎は頷きつつも、眉を寄せる。
「でも、どうして“魔”なんて呼ばれるんです? 悪いものみたいじゃないですか。」
カリスは肩をすくめる。
カリス:「もともとは“摩訶不思議な力”を略して“摩力”とか“摩法”って呼ばれてたんです。でも、人族は“わからないもの=怖いもの”と感じやすいでしょ? だから“摩”がだんだん“魔”に変わってしまったんです。」
ワタまる:「ぽふぽふ!(名前だけで損してるー)」
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三郎は少し考え込み、茶をひと口飲んだ。
「……つまり、魔族が恐れられるのは、分からないから?」
カリスは真剣に頷く。
カリス:「そう。恐怖の裏返しです。摩力に過剰に馴染んだ動物は“魔獣”になるし、ときには大きな災害も引き起こす。だから人族は“摩力そのものが危険だ”と思い込んだんです。でも……本当はただの力。使い方次第なんですよ。」
「なるほどなぁ……。」
三郎はカップを置き、ふうと息をついた。
「それなら、魔族と人族も――」
カリス:「ええ。“敵”じゃなく、“違う馴染み方をした隣人”なんです。」
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ワタまるがころんと転がり、三郎の膝にのった。
三郎はその頭を撫でながら、笑みを浮かべる。
「魔族だって人族だって、怖がらずに知り合えたら……もう少し笑顔は増えるかもしれませんね。」
カリスはにっこり笑って、空になったカップを高く掲げた。
カリス:「はい! 異世界講座、勉強になりましたね!大成功~!」
ワタまる:「ぽふっ!(おしまい)」
和ら木には、夜の柔らかな風が流れていた。




