第27話 --小さな夢の絵描き--
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和ら木の昼下がり。
カウンターの上でワタまるが転がり、ぽふぽふと丸を描いて遊んでいる。
三郎は湯気の立つポットを用意しながら、ふっと笑った。
ちりん、とドアベルが鳴る。
ふわりと光が舞い、カリスが子どもを連れて現れた。
カリス:「本日の相談者は……未来の大画家さんです!」
「だ、大画家?」と三郎が目を瞬かせる。
入ってきたのは、まだ十歳にも満たないだろう小さな少年。
片手にはくしゃくしゃになった紙束と、色の抜けた絵筆を抱えていた。
カリス:「リトくんです!」
リト:「……り、リトです。」
三郎は微笑み、深く頭を下げた。
「和ら木へようこそ。店主の三郎です。どうぞ、座ってください。」
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温かいお茶と菓子を前に、少年はもじもじと俯いていた。
やがて勇気を振り絞るように、紙束を差し出す。
リト:「……これ……僕の絵です。」
そこには、ぎこちない線で描かれた街や人、そして空に浮かぶ竜の姿。
色はところどころはみ出しているが、どの絵にも不思議な温かさがあった。
三郎は一枚ずつ丁寧に眺め、静かに頷いた。
「……とてもいい絵ですね。元気な声が聞こえてきそうだ。」
リトの目がわずかに揺れた。
リト:「……でも、笑われるんです。『下手くそだ』とか『落書きだ』って。
だから……もう描くのやめようかなって……。」
ワタまるがころんと机に乗り、紙の上で「ぽふっ」と跳ねた。
インクが少しにじんで、まるで絵に生き物が加わったように見える。
カリスは楽しそうに笑った。
カリス:「ほら、ワタまるはもう絵の仲間になっちゃいましたよ!」
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三郎はリトの瞳を見つめ、ゆっくり言葉を置いた。
「リトくん。君の絵は、上手い下手で測るものじゃない。
君にしか見えない景色を描いているから、心に届くんです。」
リト:「……僕にしか、見えない景色……?」
「そう。誰もが同じ場所を見ても、同じに描けるわけじゃない。
誰もが違うからこそ、絵には意味があるんです。
笑う人もいるかもしれない。でも、必ず誰かの心には届く。
それを信じて、君は描き続けていいんです。」
リトはぎゅっと紙束を抱きしめた。
やがて小さな声で、けれど確かな調子で言った。
リト:「……僕、描きたいです。もっといっぱい。」
三郎はにこやかに頷いた。
「ええ、その気持ちを忘れなければ、きっと素晴らしい絵描きになれます。」
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数日後の街角。
リトは小さな絵を並べて「どうぞ見てください!」と声を張っていた。
通りすがりの人々は「かわいいね」と笑い、足を止める。
子どもたちは一緒に紙に落書きを始め、そこには笑い声が広がっていた。
カリスがふわりと現れ、三郎に囁く。
カリス:「リトくん、もう立派に人を笑顔にしてますね。三郎さん、今回の甘甘ポイントは+70点です!」
三郎は目を細めて答えた。
「……自分の絵を信じる気持ちが、人を動かすんですよ。」
ワタまるが「ぽふー!」と鳴き、リトの絵の端に小さな丸い足跡を残した。
それはまるで、未来への印のように輝いていた。




