第25話 --心をつなぐ少女--
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和ら木の昼下がり。
三郎は湯を注ぎながら、カウンター越しに差し込む光を眺めていた。
その時、ふわりと光が舞い、カリスが姿を現す。
カリス:「今日は……ちょっと特別なお客様をお連れしました!」
ちりん、とドアベルが鳴く。
扉の向こうから現れたのは、まだ年若い少女だった。
灰色のマントを深くかぶり、その裾をぎゅっと握りしめる。
怯えと反抗が入り混じった瞳は、まるで近寄るなと訴えているようだった。
カリス:「こちら、魔獣と心を通わせることができる……ミナさんです。」
カリスの紹介に、少女は小さく顔を背けながらつぶやく。
ミナ:「……ミナ。」
三郎も深く頭を下げる。
「和ら木へようこそ。三郎です。どうぞ、こちらに。」
お茶が運ばれたが、ミナは視線を落としたまま。
湯気が静かに揺れるその時、足元の影から何かが動いた。
ごうっと空気が重くなる。
黒い毛並みに鋭い牙、赤い瞳を持つ魔獣が姿を現したのだ。
店の空気が一気に張り詰め、三郎の喉が思わず鳴った。
「……っ!」
魔獣は低く唸り、だが少女の隣に静かに座り込む。
その姿は荒々しくもあり、同時に彼女を守ろうとする忠実さも漂わせていた。
ミナが口を開く。
ミナ:「……怖いでしょ。みんなそう。私の力を気味悪がる。だから……人間なんていらない。私は魔獣と生きる。」
三郎はゆっくり息を整えた。
鼓動はまだ早い。けれど、正面から彼女に向き合い、穏やかな声で返す。
「驚いたよ。でも、君と彼の絆は確かに伝わってきます。……本当に強い繋がりですね。」
一瞬だけ、ミナの瞳が揺れる。けれどすぐに顔を伏せた。
ミナ:「魔獣はと繋がるのは私にとっては簡単なんです。こっちが強く思えば、そのまま応えてくれる。裏切らないし、嘘もつかない。……でも人間は違う。わからないんです。難しすぎる。」
三郎はしばらく黙り、茶を見つめてから静かに言葉を置いた。
「……そうですね。人の気持ちって複雑ですよね。分かってもらえないことも多いし、思った通りに応えてくれるわけじゃない。だからこそ、難しいんです。」
ミナの肩がかすかに震える。
「でも、考えてみてください。ミナさんは、魔獣の気持ちを知ろうとして歩み寄りましたよね。相手を信じて、心を差し出したから通じ合えたんじゃないですか。」
ミナは顔を上げる。その表情には戸惑いと迷いが浮かんでいた。
「人も同じなんです。すぐには通じ合えなくても、少しずつ寄り添えば必ず心は開いていきます。わからないからこそ、根気強く寄り添ってみないといけない。……難しい分だけ、つながれたときは魔獣以上に深くなれるかもしれない。」
しんとした空気。
ミナは拳を握りしめて俯いたまま、長い沈黙を続けた。
その時、足元の魔獣が低く喉を鳴らし、少女の膝へ鼻先を寄せた。
ワタまるもころんと転がり、机の上からぽふっと飛び降りる。
小さな体で魔獣の隣にちょこんと座り、丸い瞳でじっとミナを見上げた。
少女の目から、不意に涙がこぼれ落ちた。
ミナ:「……難しいと思います。理解もされないかも…、でも……やってみたい。魔獣と通じ合えたみたいに、人とも……。」
三郎は柔らかく微笑んだ。
「ええ。ミナさんなら、きっとできます。だってもう、最初の一歩を踏み出そうとしてますから。」
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数日後の和ら木。
ちりん、とドアベルが鳴く。
入ってきたミナは、数人の子どもたちを連れていた。
隣にはあの魔獣もいる。牙をむくことなく、静かに床に伏せていた。
「この子たちに、魔獣のことを教えているんです。……怖がらずに知れば、魔獣も人と同じなんだって分かってほしくて。」
子どもたちは目を輝かせ、口々に「もっと話して!」とせがむ。
ミナは少し照れながらも笑みを浮かべ、魔獣の首を撫でた。
三郎はその姿を見て、胸の奥で静かに息をついた。
――避け続けていた川に、彼女は今、橋を架け渡り始めたのだ。
ふわりと光が舞い、カリスが現れる。
「今回のポイントは……“困難を避けず、寄り添った勇気”に+60ポイント!」
ミナは驚いたように目を瞬き、それから小さな声で呟いた。
ミナ:「……私、ちょっとは変われたのかな。」
魔獣が低く鳴き、ワタまるが「ぽふっ」と跳ねた。
その響きは、まるで「もちろん」と答えているかのようだった。
和ら木はその日、人と魔獣、そして小さな命のぬくもりで満ちていた。




