第24話 --未来へ向けて--
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和ら木の夕暮れ。
窓の外では灯りがともり、夜の気配が静かに忍び寄っていた。
ワタまるがカウンターの上で「ぽふー」と丸まり、三郎は湯気立つ茶を用意していた。
ふわりと光が舞い、カリスが姿を現す。
カリス:「本日は……未来を見通す方をお連れしました!」
ちりん、とドアベルが鳴く。
入ってきたのはフードを深くかぶった男。年の頃は三十代ほどか。
目元に影を落としながらも、その瞳は奥底に確かな光を宿していた。
カリス:「こちら、未来視の占者セオルさんです。」
セオルは軽く会釈し、低く名乗った。
セオル:「……セオルと申します。」
三郎も立ち上がり、深く頭を下げる。
「和ら木へようこそ。三郎です。どうぞ、こちらに。」
二人は席に着き、茶が注がれる。
香りが漂う中、セオルはカップに手を伸ばしつつ、ためらいがちに口を開いた。
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セオル:「……私は、未来を見る力を持っています。
人が歩けば、その先に訪れる不幸や喜びが見えてしまう。
だから人々に助言してきました。“そこに行けば災いがある”“この人と共にあれば幸福がある”と。
……けれど……心が重いのです。」
「重い……?」
セオル:「ええ。人を救うはずなのに、私自身はどんどん疲れていく。
祭りを見ても、人々の笑顔を見ても……私には先の別れや不幸ばかりが浮かんでしまうんです。
……私、どうしてこんなに虚しいんでしょうか。」
ワタまるが「ぽふっ」と鳴き、テーブルを転がる。
セオルはその小さな動きにわずかに目を細め、すぐにまたうつむいた。
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三郎は茶を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「セオルさんは、もしかして、今を見ていないんじゃないですか。」
セオル:「……今を?」
三郎:「未来を見る力が強いからこそ、目の前をすり抜けてしまってるんだと思います。
お茶の香り、子どもの笑い声、夕焼けの色……。
そういう“今”を味わわないままだから、どんなに未来を救っても心が虚しいんです。」
セオルは目を瞬き、カップを両手で包んだ。
ゆっくりと口に含むと、その温かさに思わず息を漏らす。
セオル:「……ああ……あたたかい。
そうか……私は未来ばかりに囚われて、“今”を生きていなかったのか……。」
三郎は微笑み、頷いた。
「未来を見るのはあなたの力です。でも、“今を生きる”のはあなたにしかできないことです。」
セオルの目が揺れ、やがて穏やかな笑みを浮かべる。
セオル:「……ああ、そうなのか……。
私はずっと、答えを探していたのに……目の前にあったんだな。」
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数日後の和ら木。
ちりん、とドアベルが鳴き、セオルが再び訪れた。
今日はどこか柔らかい表情で、街の子どもたちを連れている。
セオル:「今日は占いではなく……ただ一緒に歩いてきました。
未来のことを告げず、子どもたちと同じ目線で、ただ“今”を楽しむために。」
子どもたちが笑い声をあげ、ワタまるを追いかけて店内を駆け回る。
セオルはその様子を見て、胸の奥から笑みをこぼした。
カリスがふわりと現れ、嬉しそうに手を叩く。
カリス:「今回のポイントは……“今を受け止める気づき”+45ポイント!」
三郎は目を細めて頷いた。
「未来視の占者にしかできないことはある。でも……今を楽しむセオルさんにしかできないこともあるんです。」
セオルは深くうなずき、静かに目を閉じた。
その胸には、確かに“今”を生きる温かさが宿っていた。




