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第23話 --認められる和ら木--


和ら木の午後。

ちりん、とドアベルが鳴くと、見慣れぬ顔ぶれが次々と入ってきた。

八百屋の店主、仕立屋の夫婦、駆け出しの書記官……。

普段は相談者として来ない人たちだ。


「いらっしゃいませ。……今日は随分とにぎやかですね。」


八百屋の親父が腕を組み、真剣な顔で言った。


「和ら木の評判は街じゅうに広まってるんだ。ここに来るとみんな元気になって帰る。……それ、どうやってるのか教えてくれ!」


他の人たちもうんうんとうなずく。


「うちの店も、あの空気を真似したいんです」

「子どもたちに笑顔を取り戻したくて」

「仕事場の雰囲気をよくしたいんだ」


三郎は面食らい、思わずカップを拭く手を止めた。


「……秘訣、ですか。うーん……。」


カリスが横で胸を張る。


カリス:「ふふん! 三郎さんの考えは深いんですよ! 皆さん、覚悟はいいですか?」


街の人たちは一斉に前のめりになる。



---


三郎は少し考え、ゆっくり口を開いた。


「僕がやっているのは、ただ話を聞いて、その人を“そのまま”受け入れることです。

欠点を叱るより、今日まで頑張ってきたことを認める。

そして“明日からできること”を一緒に考える。……それだけなんです。」


八百屋:「……そ、それだけか?」


「ええ。でも本当にやるのは難しいんです。人はどうしても、欠けや失敗を先に見てしまうから。」


仕立屋の妻は顔を見合わせ、小声でつぶやいた。


「……とりあえず、褒めればいいってことかしら?」


「そ、そうだな! 形からだ!」


他の人たちも「じゃあ挨拶を明るくする」「まずは笑顔だ」と次々に声を上げ、メモを取ったり頷いたりする。


三郎は苦笑しながらも止めなかった。


「……形からでも、きっかけになるならいいんです。」



---


数日後。


市場の八百屋では、店主が大声で言っていた。


「おう、今日もよく来てくれたな! ありがとよ!」

買い物客は驚きながらも笑顔で野菜を受け取る。


仕立屋の店では、夫婦が「今日も素敵ですね」と客を褒めるようになり、店の雰囲気が柔らかくなった。


書記官の職場では「まずはお疲れさま」と声を掛け合う習慣が生まれた。


どれもぎこちなく、時には空回りもしていたが、確かに以前より空気は明るくなっていた。



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