番外編 --パーティーメンバーの憂鬱--
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和ら木の午後。
客の途切れた静かな時間、三郎がカウンターを磨いていると――。
ちりん、とドアベルが鳴いた。
入ってきたのは勇者アレン、剣士ロイク、僧侶サム、そして魔法使いミラ。
「……あれ、全員そろってるの珍しいですね。」
アレンは鎧を半分だけ抱えたまま、カウンターにどさっと座った。
アレン:「はぁ……今日も出番なし。」
ロイク:「討伐隊が優秀すぎるんだよ。俺らの剣振るう暇がない。」
サム:「病人も怪我人も出てないのはいいことですが……正直、暇です。」
ミラ:「私なんか、新魔法を研究しても“実戦じゃ使えない”って言われたのよ!」
ワタまるが「ぽふー」と鳴きながら、4人の間をころころ転がっていく。
アレン:「俺は毎朝、鎧を磨いてるんだ。でも外に出れば“もう魔王なんていないんじゃないか”って笑われるんだぞ。」
ロイク:「……その磨かれすぎて光る鎧が余計に笑われてる気がするが。」
アレン:「うぐっ……!」
ロイク:「俺は訓練場で素振りしてたら、子どもに“剣より木工のほうが稼げるよ”って言われた。」
サム:「……いや、確かに稼げるかもしれませんけど。」
ロイク:「俺は剣士だぞ!? 木工職人じゃない!」
ミラ:「剣で木を削ればいいんじゃない?」
ロイク:「台無しだろ!」
サム:「神殿に行ってもやることがなく……賽銭箱の埃を払って過ごしました。」
アレン:「それは……立派な掃除係だな。」
サム:「やめてください! 本職は僧侶です!」
ミラ:「でも埃は払われて神様も喜んでるんじゃない?」
サム:「慰め方が雑なんです!」
ミラ:「私は魔術研究所で新しい大魔法を披露したの。そしたら“魔力消費が多すぎる”って……。じゃあどうすればいいのよ!」
ロイク:「……少し控えめに撃てば?」
ミラ:「花火じゃないんだから!」
アレン:「でもお前、最近は市場で占いしてるだろ。」
ミラ:「し、仕方ないでしょ! “明日はいい日になります”って言うだけで小銭が入るんだから!」
サム:「そりゃ魔物出ませんからね……」
ミラ:「むぅーー!」
カウンターの奥で、三郎が笑いながら湯を差し出した。
「皆さん。平和すぎて憂鬱なのは……平和の証拠じゃないですか。」
アレン:「でも……俺たち、勇者パーティーなんだぞ?」
ロイク:「そうだ。何もせず終わるなんて……。」
サム:「肩書きだけで終わるのは……少し虚しいですね。」
ミラ:「私はまだ大魔法を――」
ワタまる:「ぽふ!」(机に飛び乗ってみんなを見回す)
三郎は穏やかに言った。
「憂鬱も笑える日常になれば、それで十分ですよ。皆さんが剣や魔法を振るわないで済むなら、こんなに幸せなことはありません。」
4人は顔を見合わせ、しばし黙った。
やがてアレンがふっと笑う。
アレン:「……そうか。俺たちの憂鬱は、世界が平和だってことか。」
ロイク:「なら、もう少し暇を楽しむか。」
サム:「神殿の埃を……もう一度払いに行きましょうかね。」
ミラ:「私は占いでひと稼ぎしてくる!」
「……最後だけ平和と関係ないですよね?」
そのとき、カリスがふわりと現れた。
にこやかに手を合わせ、ひと言。
カリス:「でも、誰も傷つかない退屈って……最高の贅沢ですよね。」
一同は思わず黙り込み、みんなで見合わせてから、小さく長く笑ったのだった。
和ら木には、また一つ平和な空気が流れ込んでいた。




