#3 議員会館進行!
案内役の老秘書に導かれると、そこに待ち受けていたのは国民保守党の鵜殿一郎議員だった。
「一皮剥けた感じがするねえ、出雲崎君。去年の選挙で手伝ってくれた時以来かな?」
鵜殿議員が低く笑う。
奈良井社長とは経産省時代の同期で、「鉄道族」と呼ばれる鉄道政策のベテラン議員だ。
「あ……はい。ご無沙汰しておりました」
真理が緊張しながら頭を下げた。
「君のプレゼン資料、拝見したんだけど」
鵜殿議員がじっと真理を見つめる。
「特に……各県が出資すれば新幹線が来るという提案。これは効く」
「ありがとうございます!では……賛成していただけますか?」
椿山が期待を込めて尋ねた。彼の姿勢はまさに「おねだりする妹」のようだ。オジサマ議員はこういうのには弱い……はずだ。
「残念ながら」
鵜殿議員は首を振った。
「今のままだと難しいね。前回の選挙で追い込んだとはいえ、与党はまだ自由保守党だ。法改正の場合も、彼らの協力は不可欠になる」
「では……」
真理が食い下がる。
「私たちが説得します」
鵜殿議員は、加熱式たばこを取り出そうとして止めた。そもそも、この部屋は禁煙のはずだと思ったが…
「さすがの奈良井も、自由保守の鉄道族に効くコネはないと思うね。あっちは派閥の統制がキツいから、そう簡単に会ってはくれない」
ちょうどその時、老秘書が先生に声をかける。
「おっと…次のアポがある。改めて話の続きをしよう」
「えっ?」
「まぁ焦らんでいいよ。ああそうだ、名取君。この人たちにも、来月のセミナーの案内状を送ってやっといてくれ。では、これにて失礼」
老秘書は名取耕三さんという名前らしい。それにしても、一体どんなセミナーなのだろうか。真理は、そんなことを思っていた。
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鵜殿議員と名取氏が去った後、沈黙が訪れた。
「やっぱり……簡単じゃないんですね」
彼の細い肩が小刻みに震えている。
「まぁ……予想通りよね〜」
幸恵先輩が髪をかき上げた。
「でもね〜今日は別の収穫があったんだけど、分かる?」
真理が首をかしげた。
「鵜殿さんが最後に言った『セミナー』よ♪きっと明日か明後日くらいには、会社に案内状が送られてくると思うよ。届いたら一緒に開けてみようね」
椿山が目を丸くする。
「どうして収穫と断言できるんですか?」
「長年のカン……かな?あとね〜」
彼女が突然真理に近づく。
「今日の真理ちゃん……すごく格好良かったわよ♡」
「えっ……!?」
真理が真っ赤になった。幸恵先輩の香水の匂いが鼻をくすぐる。
(先輩……またからかってる)
そう思いながらも胸が高鳴る自分がいた。