#2 場内注意
最初の班ミーティングで真理が宣言する。
「第一段階は法改正です。大日本旅客鉄道株式会社及び大日本貨物鉄道株式会社に関する法律(DNR法)の改正が必要になります」
「でもさ〜」
幸恵先輩が、短く整えた爪を眺めながら呟く。
「既存のDNR7社間には資本関係はない。これを統合するってことは……」
「そうです」
真理がうなずく。
「単なる合併ではなく、完全なホールディングス化。親会社を作って、傘下に7社が入る形ですね。これにより……」
「運賃制度やダイヤも一本化できる」
椿山が目を輝かせた。
「その通りです!」
真理が机を叩いた。
「さらに……」
真理の声が少し震える。
「各DNR沿線自治体が、ホールディングス会社に出資することを法律で定めるんです」
「つまり……地元負担で鉄道を救うってことね」
幸恵先輩がふーっとため息をついた。
「いえ、逆です」
真理が資料を掲げた。
「各県で出資比率を競争させるんです。出資金額が大きい自治体には……」
「何か特典があるんですか?」
椿山が首を傾げる。
「うん」
真理の目が鋭く光った。
「新幹線の延伸や在来線の増便など……投資額に応じたインフラ整備を確約する」
「なるほど〜」
幸恵先輩が頷いた。
「『税金で鉄道を支える』というネガティブなイメージより、『お金を出せば地域が良くなる』って捉え方に変えるわけね〜♪」
「その通りです!」
真理が嬉しそうに答えた。
「でも」
椿山が不安そうに尋ねた。
「DNR線のない沖縄県は反発しませんか?」
真理は深く考え込む。
「そこは……何も得ない代わりに、出資もしないで済む特例にすればいいんじゃないかな」
「あとは、もう1つ重要なポイントがあります」
真理が資料をめくった。
「各県議会への直接働きかけです。特に……」
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「あなた達には不可能です」
次の日、国土交通省の官房審議官室で、真理たち3人は冷たい視線にさらされていた。
「奈良井さんから話は聞きました。DNR統合ですか?」筋肉質の官僚が嘲笑った。
「まるで戦前の『帝国鉄道』に戻せと言わんばかりのことです」
「いえ……」
真理が必死に説明しようとする。
「いいですか」
審議官が机を叩いた。
「今のDNRは地域密着が基本です。本州の利益で北海道や九州を養うなんて……税金泥棒と呼ばれますよ?」
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帰りのエレベーター。椿山君は疲れ気味のようだ。
「役人は相手にしてくれないですね……」
すると、幸恵先輩が突然言った。
「幸恵はねぇ……政治家さんにご挨拶に行こうと思うのよ〜♪」
「政治家?」
椿山君が驚く。
「そうよ〜」
幸恵先輩がウインクした。
「まずは野党からかな〜?だって……自由保守党がこんな案通すわけないもの」
真理の胸がぎゅっと締め付けられた。
(本当にうまく行くんだろうか……)
その時、スマホにメールが届いた。差出人は奈良井社長。『明日午後1時 特別セッションを設ける』