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最前線に一番弱い俺がいる  Where the Weakest Stands First  作者: 斎賀久遠
**第1章:拾われた盾、託された未来 **
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第六話:【洗い流されるもの】

野営地からの帰路の途中、

荷車は、ぎしぎしと軋みを上げながら進んでいた。

町から離れて一昼夜。すでに人の往来も絶えた山道だ。


新しい主人レティシア・ヴェルメイユは荷車に揺られながら、長くため息をついた。

そして、何の前触れもなく俺を指差した。


「……臭い」


「そこの川で体、洗ってきなさい。髪もよ」


「服は脱いで、その辺に捨てておきなさい。付き人に替えの服を持たせてあるから」


俺は「……はい」とも言わず、ただうなずいて、川の方へ歩き出す。


それだけ言うとレティは、もう興味を失ったように馬車に戻っていった。


冷たい川の水が足に触れたとき、


思ったよりも早く、呼吸が乱れた。


それが水の冷たさのせいなのか、


それともさっきの一言のせいなのか、俺には分からなかった。


服を脱いで、川に浸かる。


身体をこすっても、何も落ちていく感じはしなかった。


皮膚を洗っても、何かがこびりついている気がした。


“臭い”って、なんだろうな。


ただの汗や泥のことだったのか。


それとも、もっと別の何か――俺の存在そのものを、指していたのか。


湧き水が流れる音だけが、やけにやかましかった。


まるで、「落ちるもんは全部落ちろ」とでも言われてるみたいだった。


道端の川は冷たく、肌を刺す。

湧き水を含んだ清流は、砂も石も容赦なく流していく。


……どうせ、汗も、泥も、俺が誰かも、みんな流れていけばいい。


「洗い終わったら、戻りなさい。時間は無駄にしないように」


それが、“彼女の命令”だった。


どんな戦いよりも、

どんな怪物よりも、

この女の言葉の方が、ずっと冷たかった。

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― 新着の感想 ―
他の小説となにが違うのか、とにかく読ませる力が凄まじい。忙しいから、ちょっと覗いただけだからと、これでやめようこれでやめようと思ってても、つい次の話をクリックしてました。挿絵も綺麗で楽しみになる。ブッ…
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