第三話:【余興の裏で】
前日の朝から、俺たちは運ばされていた。
木箱、テントの骨組み、簡易調理台、支柱用の杭。
“貴族様たちの余興のための戦場”を作るための、荷物だった。
俺たち奴隷は、雇われた冒険者に指示され、
その通りに、文句も言わず、手と足を動かす。
「そっち、早く組め!明日にはお貴族様がご到着だぞ!」
怒鳴り声の正体は、Cランクくらいの傭兵だ。
俺より数段上等な“使われる側”の人間。
だが、“死ぬ順番”で言えば、大して変わらない。
日が暮れるまでに、数十のテントが並んだ。
料理を出すための火床。
武器の展示用のラック。
そして、「観覧用の柵」。
貴族が安全に“モンスター狩り”を楽しめるように、
距離と高さが計算された地形が用意されていく。
俺たちは、戦場にいた。
でも、戦う権利はなかった。
「今年の獲物は何だ?また牙持ちか?」
「レティシア様が、“囮役に奴隷を使って試したい”と仰っていたそうです」
「おっと、また始まったか。変わらんな、あのお嬢様」
「ま、面白くなりそうだ。死ぬのは奴隷だしな」
設営が終わった夜、
俺たちは、野営地の外れにまとめられた。
寝床と呼ばれる、地面に敷かれた古布。
食事と呼ばれる、湯に浮いた黒い塊。
「明日、おまえらの中から囮を選ぶ。体力残しとけよ」
体力、残す……?
それがどうやって可能だ?
朝から木材担いで、杭打って、川で食器洗って、
腰が砕けるまで働いて、それでもまだ足りないと怒鳴られて——
それでも俺は、寝た。
次の日も前に立たされるのが、いつものことだったから。