第一話:【誰が俺を使い潰すかは、サイコロで決まる。】
第一話:【誰が俺を使い潰すかは、サイコロで決まる。】
ギルドの受付嬢は、目を合わせてくれなかった。
「はい次〜、…えーと、識別番号“E-117”、…無所属の奴隷ですね。割り当て先、くじで決めます」
カラン、カラン。
俺の行き先は、骨董品のような箱の中にあった小さなサイコロが決めた。
「…あー、運が悪いですね。Bランク傭兵隊“レッドファング”です。今週三人目の死者が出てますけど」
「……はい」
断れるわけがない。
奴隷に“希望”なんて選択肢は、元から用意されていない。
「装備は貸し出し用の盾がひとつ、武器は無し、魔法無し。前衛固定。君は“盾”です」
盾。
“防ぐ”ための人間。
“壊れるまで使われる”物体。
「おい、今日の囮は猫背でいいよな」
俺のことだ。もう“猫背”って名前でいい気がしてきた。
レッドファングの朝は、だいたいこんな調子だ。
誰も名前で呼ばないし、武器も持たせてもらえない。
俺にあるのは、借り物の盾と、あんまり役に立たない命だけ。
「行くぞ。岩地のやつ、動き遅いから、今日は楽勝だ」
楽勝?あぁ、そうか。俺の足が遅いのは、計算に入ってないんだな。
背中を丸めて岩場を歩く。
足場が崩れそうなところで、声が飛ぶ。
「そっち進め。音立てて踏め」
やっぱり俺が囮か。
「すぐ出てくるからよ、そしたらこっちに引け」
そう簡単にいくもんか。
でも言われた通り、やる。
そういう仕事だ。死ななきゃいいってやつ。
……出た。
巨大なトカゲか、ドラゴンの成れの果てみたいなやつ。
黒くて、甲殻がバキバキ音を立てる。
視線が合った瞬間、胃の中の空気が全部逃げていく感覚。
「よっ…」
足を踏み出した瞬間、岩が崩れ、転んだ。
見上げた空に、黒い影が覆いかぶさる。
バカだな。
俺は、こうなるって知ってたろ。
——重さの感覚と、
——呼吸の止まる音。
——それでも、どこか冷静な思考だけが残ってる。
……
……
起きた。
起きて、息を吐いて、盾を掴んでた。
「……マジか」
仲間が岩陰から顔を出して言った。
「生きてんのか、あの猫背」
生きてるよ。
まだちょっと痛いけど、起きたってことは、次があるってことだ。
「ほらよ、二撃目来るぞ。走れ、猫背」
走れ、ね。
わかったよ。
また前に出るよ。
それが俺の立ち位置だろ?最前線の、誰も見てない端っこ。