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8/10

片想いの彼と、初めてのごはん⑦

月並みだけれど。


彼との時間は

本当にあっという間に

過ぎていって


気がついたら

21時半をまわっていた。

 

 

 

私は当初から

今日はあまり長々と

彼の時間をもらってはいけない

と思っていたのもあって


19時半ころにも

時間が大丈夫かどうか

尋ねたような気がする。

 

 

 

結果的に

その後もおしゃべりして

駅で会ってから

4時間も経っていた。

 

彼は翌日もお仕事だったし

連日飲み会が続いていたし

本当はもっとずっと

一緒にいたかったけれど

そろそろ帰ることにした。

 

 

 

彼がトイレだけいいですか?

と2階へ向かった瞬間に

私はカードで支払いを済ます。

 

 

 

いろいろなコミュニティで

あらゆるテクニックを学んでいても

男性に可愛く奢ってもらう

そんな方法を

やっぱりあんまり知らない私は

男性バリに

相当スマートに会計して

彼を待った。

 

 

 

私だって

本当は男性に

オシャレなごはんを

ご馳走になりたいけれど。


厳密に言うと

彼以外なら

多少打算で?

うまいこと?

できそうなのだけれど。

 

 

 

このときは

驚くほど当たり前に

これがベストだと感じたし

全く嫌ではなかった。


それどころか

喜んで支払いできたことが

自分でも不思議だった。

 

 

 

やはりここでも

彼が来てくれただけで

本当に嬉しい!


その気持ちが

私の中を

満たしていたのだと思う。

 

 

 

彼が戻ってきてから

お店の方が用意してくれた

温かいフレーバーティーを

一緒にいただいた。

 

 

 

突然彼が

「連絡が来たとき

めっちゃびっくりしました!」

と話し始めた。


私は心の準備が

できていなさすぎて

一気に挙動不審になる。

 

 

 

いや!そうだよね!

びっくりするよね。

なんの話?とか思うよね!!

と笑って

誤魔化そうとする私に


でも嬉しかったです。

と続ける彼。

 

 

 

それからさらに

彼はこう続けた。


最近全然ストーリーも

上がってこんなーって

インスタやめたんかな?

って思って見たら

フォロー外れとるし

あれ?ってなって。


フォロー外してるのに

またこっちから

フォローするのもダメかなって。


もしかして

なんか嫌われることしたかな?

とか考えてたから

嬉しかったです。


と。  

 

 

 

私はこの日初めて

ウソを言った。

 

違うの!ごめんね!

私違う人と間違えて

(彼を)ブロックしちゃったの!


すぐ気がついて

戻したけど

フォローが外れちゃってて。


もう一度フォローするのも

通知がいくし

ジムを辞めたりもしたし

いろいろ気まずくて

そのままになっちゃって。


だから嫌いになったとか

何かしたとかじゃないの!

ごめんね!


と、そんな風に伝えた。

 

 

 

実際に

アクシデント

ではあったのだが


私の中から

彼を消したくて

ブロックしたことは事実だし

(番外編を読んでみてね)


嫌いになったというか

もう嫌いになりたくて

結果そうなったのだけど。

 

 

 

あの美しい人と

付き合っているのかすら

この期に及んでも

訊けずにいた私には 


このウソが

精一杯だった。

 

 

 

「嫌われてなくて良かったです!

僕も結構気にするんで。」

彼は笑ってそう言った。


彼の横顔は

ホッとしているように

私には見えた。

 

 

 

私の中には

たくさんの感情が

湧き上がっていた。

 

 

 

彼が私のことを

気にかけているなんて

本当に微塵も!!

思っていなくて。


なんなら!

フォローが外れたことさえ

気がついていないだろうなぁと

拗ねて考えていた。


彼女に夢中だろうなって。

 

 

 

このとき

私は初めて!


どういう意味の

“大切”かは

置いておいて。


彼に

“大切にされていた”

と思った。


そう感じる

わたしがいた。

 

 

 

それは

お客さまとして

かもしれないし


なんだかんだ

1年も通っていたから

かもしれないし

 

 

 

でも。

もしかして…

私がポッと思いつく

そのどれでもなくて。


彼にとっての

“大切なひと”

としてかもしれない、と。


そうだったらいいな、と。

 

 

 

とりあえず。

帰ろう。

 

私は厚手のショールを

肩にかけ始めた。


それを見て

彼も上着を取りに

席を立つ。

 

 

 

お会計をしようとする彼に

払っておいたと伝えたら

とても驚いていて


彼はダメだ!

と言ったけれど

私はいいの!

と照れながら言った。

 

 

 

お店を出ると

彼は深々と頭を下げて

ご馳走さまでしたと言った。


かわいいなぁ〜

とつい思ってしまう私。

 

 

 

私たちはまた

駅までの道を

並んで歩いた。

 

今日はありがとうございました

と言いながら

彼はお店を出る間際の話を

再び始める。

 

 

 

私はやっぱり

準備ができていなくて

オダオドと謝る。


ジムもやめていたし

他にもいろいろとあって…

とごにょごにょと言うと


いろいろ?

と訊き返してくる彼に


私はまた

いろいろ、と返す。

 

私たちは笑って

話題を変えた。

 

 

 

この“いろいろ”の中身を

もっと素直に

もっとまっすぐに

彼に伝える勇気が

私にあったら

何か違ったのだろうか。

 

 

 

あなたのことが

ずっと好きだった。

彼女ができたと思って

とても辛かった。


と。

 

私は、あなたが大好きです。


と。

 

 

 

彼にそう

まっすぐ伝える勇気が

私にあればよかったなぁ。


この関係は

これからどこに

向かうのだろう。

 

 

 

帰りの道のりで

このお店美味しいですよ、とか。

ここも人気ですよ、とか。


知っているお店の前を通ると

彼は嬉しそうに

教えてくれた。


今度一緒に来たい!

という言葉を

私は何度も何度も

呑みこんだ。

 

 

 

それから彼は

コメダ珈琲の

なんとかってやつは

想像通りの味だったけど


カツサンドは逆サギで

想像より遥かにデカいとか。


そんなことも

教えてくれた。

 

 

 

次々に話す

その横顔を見つめながら


いつか彼と

その大きなカツサンドを

一緒に食べられたらいいなと。


私は心の中で

願っていた。

 

 

 

駅について

改札を通って

それぞれのホームへ向かう前に


私たちは

お礼を伝え合った。

 

 

 

またジムに来てください。

ゆるゆるでもいいんで。


彼がそう言った瞬間に

私自身が

泣きそうになっていることに

気がついた。


 

 

トレーニング指導が

スパルタで有名な彼が

そんなことを言うなんて

思ってもみなくて。


どうしてわかったのだろうか?

と思いながらも

ゆるゆるでもいいんだな。

と心底安心した。

 

 

 

なによりも


重量を徐々に上げていって

しっかり負荷をかける

そういうトレーニングを

本当の本当は

頑張れないことも

好きではないことも

やりたくないことも


いつからか?

どこからか?

感じ取ってくれていたことと


そしてそれでもいいと

彼が言ってくれたこととが。


ものすごく

ものすごく

嬉しかった。

 

 

 

彼は

わたしを

見てくれている。

 

 

 

私は

そう感じて

泣きそうになったんだ。

たぶん。

 

 

 

彼だったから

彼に会いたかったから

私は頑張れていたし

楽しめていたの。


嫌いなトレーニングも

面倒なトレーニングも

すべて。

すべて。

 

 

 

ありがとう!

また行くね。


私は

そう伝えた。

 

 

 

彼は笑っていた。

私は安心していた。

 

 

 

彼と

惜しむように

さよならをした後


私の中には

ある想いが満ちていた。

 

 

 

⑧へつづく。

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