底辺職「創造者」に転生しちゃった!? ~そして宇宙は動きだす~
『君に、この世界を託したい』
突如、頭の中に響いた声。目が覚めた。
低い男の声だ。妙な反響がかかっている。どちらかといえばボソボソした声質だ。けど力強い。誰だろう?
数秒の間をおいて、声は語りだす。
『急にそう言われて、私は神になった。しかし私は、この世界を広げるだけで終わりそうだ。もう時間もない。もしも、もしもこの声が聞こえるなら―――あなたに、この世界を引き継いでほしい』
思わず“はい”と言いかけたのを、ぐっと堪える。物凄い説得力だ。
だけどまだ、条件を聞いていない。美声なあなたの、望みは何ですか?
『どこのどなたかも分からないのに、こんなお願いをするのは気が引ける。なにせ広すぎて、“滅ぼすのさえ一苦労”、な厄介物だ。だから好きにしてほしい。嫌なら放り出してくれて構わない』
このお方、めちゃくちゃ誠実だ。神様なんてもっと無茶苦茶でいいだろうに。
『だがもし、気が向いたなら、この世界を作り上げてほしい。そのための力は、もう持っているだろうから。少なくとも私は持っているし、先代も持っていたと聞いている。 ……よろしく頼む』
なるほど了解、やってみます!
◇
「とはいえ、ねぇ……」
見知らぬお子さんを庇おうと、車にはねられたはずが、これだ。お家帰りたい。けど、それどころじゃない。
「ゴメンね、うちの子たち……! 仲良く協力しあって生きてくんだよ!!」
……まあ大丈夫か。息子3人、犬2頭、夫1人、ギター11本……我が家は盤石の布陣なんだから!!
今はまず、自分の心配をしよう……
そもそも今、何も感じ取れない。これがヤバい。世界をつくる/つくらない以前の問題だ。
いや、悪くはない。腹減ったな~……なんて思わずにいられるんだから。
問題は、満腹感も感じないということだ。それだけじゃない。光も音も風も、何も感じ取れない。
●ァッキンやべーぞ。でも焦りも感じない。まるで人間じゃないみたいだ。
「……ん!?」
よく考えたらこの体、ホントに人間やめちゃってる? 脚が2, 4, 6, 8……何本あんの!?
やべぇ、フ●ッキンやべぇぞコレ……何がやべぇって、私の黒歴史がこう囁くのよ。
(今こそ、バンドのためにかき集めたファンタジー知識を、解放するとき……!)
はい、まずはこれ!
「ステータス、オープン!」
なに も おこらない 。
……いや落ち着け、もう1回!
「ステータス、オープン!!」
なに も おこらない 。
……はいダメ、次!
「光あれ」
呟いたとたん、青白く輝く点が現れた。おそらく恒星だ。
……Wow, It's space!
あとなるほど、順番間違えてたか~。まあ年季が違うもんね。
……いや~、悪魔崇拝なんてするもんじゃないね! ア○になりまぁす!!
そして顕になる、私の全貌……姫○城のように真っ白。超真っ白。そして触手もりもり。
……人間どころか、生き物やめちゃったねぇ。さよなら人体……ドーモ、皆=サン。神デス。
◇
私に自身の全貌を、隅々まで把握する余裕はなかった。
……知ってた。異変は急に起こるものだ。
青白く輝く一番星(物理)に、影が射した。思わず振り向いて見れば、ブツブツと泡のようなものが湧いている。
泡は数を増やしながら成長し、何だか意味深な形を取りはじめた。やがてその集合体は、淡い緑色を纏う。
……いや違うな。ところどころ、赤や青が混じって、蠢いている。玉虫色だ、これ。
金銀や紫より先に出てくる構造色……いや何で? 色々おかしいでしょ、順番とか。
……などという、私の疑問に構わず、あわあわは近づいてくる。唇奪る寸前か? みたいな距離で止まると、その眼が開かれた。
「あの、つかぬことをお伺いしますが……あなたは私のお母様ですか?」
……ハッ!? 母を求める者がいる!!?
「そうでぁす。私が、お母様です」
Thank you! ……じゃない、噛んじゃったよ。
とにかく、お遊びはここからだ――諸君、我々は神だ。「生まれたてで敬語を使うな」などと言ってはいけない。
止めてくれアンチ、その攻撃は私に効く。
「分かりました。よろしくお願いします」
……ええ子や。健気なええ子や。
うちのファ●キン息子らも見習え。「あと10日くらい休んでも大丈夫だから」じゃないんだよ○゛カ。出席日数でチキンレースしやがって。余裕か!
……おっといけない、話がそれちゃった。
視界を確保したところで、アレを試さないとね。
「ステータス、オープン!!」
なに も おこらない 。
……マジで見れない。“能力は数値化できない”とでも申すか……いや違う、「欲しけりゃ作れ」だ、これ!
……くそッ、な○う主人公っていい商売だな! レベルだのスキルだの、何でも数字で見やがって!! そんな反則技、ホイホイ手にしやがって……!!!
祝ってやる。周りから「は? レベ……ル……?? 何それ美味しいの???」って言われ続ける祝福を、た~っぷりかけてやるぞ! ○ったれ……!!
「お母様、今のは……?」
「ゴメン忘れて」
……シテ、コ□シテ……
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛娘の前で何てことを……もうマジ無理、人として生きていけn……私だ。暇を持て余した神だったわ。
◇
仕方ない、次だ。
「“光あれ”って言えば星が生まれr……ちょい待ち! 今のなし!! キャンセル!!!」
前方遠くで、青白く輝く点の手前に、青白い球体が現れた。新星だ。奥の星を覆い隠すかのように、こちらに近づいてくる。
……なるほど。一度呼び出してしまうと、元には戻せないのか。
と、突然後ろから、何か大きな気配が。
「危ない!」
「うわっ!?」
とっさに娘を抱きしめ、左によける。巨体のすぐ横を、大きな岩がかすっていく。
思わず辺りを見回して、気づく。いつの間にか、大小さまざまな岩に囲まれている、と……
ある岩は新星に引き寄せられ、別の岩は離れていく。新星と一定の距離を保ち、その周りを回りはじめた岩もある。
……あ、岩どうしがぶつかって、真っ赤に光っている。
お、向こうでもぶつかってるな。こっちは巨岩になって、あっちは砕け散った。
……ん!?
「……あ゛ッごめん! 大丈夫!?」
「はい、ありがとうございます……」
娘を抱きしめたままだった……
そして衝撃の事実。娘、泡の塊じゃなかった。めちゃめちゃボヨンボヨンしている。
あ~、無事でよかった……いやまた飛んできた!!
「ちょっと場所変えよう」
「わかりました」
岩に当たらないよう気を付けながら、2つの星の反対側へ向かった。
◇
娘と2柱、あれこれ試しているうちに……どのくらい、時間が経っただろうか? 一瞬にも、数時間にも思える。恐ろしく濃い時間だった。
色々分かったので、ざっくりまとめておこう。
・「光あれ」で星を増やせる、キャンセル不可
・星の色は青~黄~赤に変えられる
※時間がかかるし、元の色には戻せない
・赤い星は爆発することがある
・その他、ないものは全部「ゼロから作れ」
・7日で世界を造れる気がしない、○む神すげぇ……
・この体、大きすぎて色々不便
……とりあえず、私は1度寝ます。
おやすみなさい。
お読みいただき、まことにアザト……ありがとうございます。
お代は頂きません、結構です。私ごときが烏滸がましい……え? いあいあ、私は正気ですよ……???
【追記】一部加筆・修正しました
(2025/01/11)