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#2 救世主誕生

 *



 気が付くとファンタジーゲームで見るような玉座の間っぽい所にいた。


 目線の先には冠をつけたパーマヘアの中年男性が、目を丸くして驚くのが見える。疲れた表情が仕事帰りのイケオジサラリーマンと言った雰囲気だ。


 その横には神官ぽい服を着たブロンド男性。イケオジよりは若く見えるが、私よりは結構年上に見える。そして王様の同じく目を丸くして驚いていた。


 そして私の周りには黒いローブを着た怪しさ抜群の人達に加え、驚いた様子で私を見る何十人もの人達。彼らはその場にへたり込んでいるが、綺麗に横並びになっている。



 ここどこ…?



 あの世かな?でも意識がハッキリしているから生きているように感じるけど…。頬をつねると痛みを感じ、夢ではない事を実感する。


 光里にズタズタにされた体はすっかり元通りだし…って何で全裸?私は訳も分からず辺りをキョロキョロしていると、イケオジサラリーマンが口を開いた。


「成功したのか…?」


「あ、あ…」


「エウセビオスよ!成功したのか!?」


 イケオジサラリーマンに声を掛けられたエウセビオスさんって人は、我を取り戻したようにハッとする。


「そ、そのようです」


「目の前にいるのは本当に”救世主”なのか?」


「ガ、ガイウス王。詳しく調べてないとわかりませんが、少なくとも儀式は成功したかと…」


「そ、そうか…良かった」


 ガイウス王って言った?本当に王様だったんだ。


 イケオジサラリーマンことガイウス王はホッと息をついた後、間を取るように咳払いをして私に話しかける。


「金色の髪をした者よ。突然の事で驚いておるだろうがーー」


「ガイウス王」


 王様が話そうとすると綺麗な女性の声が聞こえてきた。顔を向けると整列している人達の中に女騎士が立っており、真面目な表情で王様を見ていた。


 凛とした雰囲気に、剣を腰に下げている姿は女騎士と言った風貌だ。一際目立つ艶のある黒髪のロングヘアに、外国人のように背の高いその女性は遠目から見ても分かる程に超美人だった。


「お話の途中申し訳ありません。この者にローブを着せても?」


「そ、そうだな。頼んだぞアメリア」


 王様の言葉を聞いた女騎士は軽く頭を下げた後、凛とした足取りで部屋から出ていった。そして1分も経たないうちに茶色のローブを抱えて戻ってくると、女騎士は一直線に私の元に歩いてきた。


「こちらを、そのままだと落ち着かないでしょう?」


 彼女は優しい笑みを浮かべて私を見る。


「あっ」


 私の頭の中にトゥンクと音がなる。好き。これが一目惚れか。私の心と心臓は超音速で拍動しているのかと言うくらいにドキドキしている。


「あの…」


 見惚れていると困惑した表情が見えたので、私はおどおどしながらローブを受け取る。


 何とも美しい女性だ。鼻筋が通っていて吊り目が特徴的。何より顔面が良すぎる。整った目鼻立ちは見るものを全てを魅了してしまいそう。現に私は魅了されてしまっている。それに加えて良い人だ、見ず知らずの私に気を遣ってくれる。


 女騎士ーーアメリアさんは私にローブを渡すと直ぐに離れていった。


「あっ…」


 お礼を言おうとしたが、美人女性を前にした私は喉に言葉を詰まらせて何も言えなかった。


「………」


 後でちゃんとお礼しないと。そしてあわよくばお近づきに…って何を考えているんだ私は。それよりも重要なことがあるだろう。


 渡されたローブを羽織ると、落ち着かない気分は少しばかり収まり安心感を覚える。


「気が利かずにすまなかったな」


 立ち上がると、王様が早速声を掛けてきた。


「い、いえ…」


「ふっ…妙に落ち着いているな」


 確かにローブを羽織って落ち着いたけど、この状況は一体なんでしょうか。最早驚きを通り越している。


「これが救世主たる所以か…」


 救世主?誰それ……って、この流れだと私か?


「お主、名は何と申す」


 名前か…とりあえず本名を答えよう。


「明里…です」


「ふむ…アカリデス殿か」


 ん…?


「灯りのように堂々と周囲を照らす姿はまるで天に輝く太陽……良き名だ」


 いや明里なんだけど!てか理由は最早妄想でしょ!


 訂正しようとするが、その前に王様の口が開いた。


「アカリデス殿、早速本題に入ろう」


 王様が本題に入ろうとしている。物凄い真剣な顔つきだし、名前が違うと言い辛い雰囲気になってしまった。まぁ…ガイウス王とかアメリアさんとかの名前を考えるとアカリデスの方が自然なのかもしれないし……アカリデスでいっか。


「この世界に来て混乱しているであろうお主に、こんな事を頼むのは申し訳なく思うが……」


「はい…」


「イグニア王国の救世主となって欲しい」


「は…?」


 何を言ってるんだこの王様。救世主だって?てか救世主ってなに。私には馴染みのない言葉だ。


「突然の事で驚くのも無理はない。だが我らの状況は非常に危ういものとなっている」


「はぁ…」


 凄い真面目そうに喋っているし、とりあえず話を聞いてみよう。


「私が王として治めているイグニア王国は現在、魔物によって窮地に立たされている」


「魔物…?」


「詳しくは後で話すが、家畜が襲われたり、民家への襲撃がここ数年で急激に増加している」


 え……襲撃って、私の想像する襲撃なの?畑や人が熊に襲われるみたいな。


「騎士や魔術師が何人も亡くなっている」


 亡くなってるって……死んだってこと?


「魔物対処を主軸とした傭兵組合の設置や、精鋭調査隊の派遣などの政策を打ち出してみたは良いものの、魔物の出現に追いつかず、状況は日に日に悪くなる一方だ」


 王様は険しい表情で話してるけど、私にはやっぱり意味が分からない。何せ女子高生だったのだ。人が死ぬ程の問題に対して私が何かできるとは思えないし、そもそも魔術師?騎士団?そこから詳しく教えて欲しい。


「この状況を鑑みた我らは預言者の託宣に従い、救世主を呼び出す”召喚の儀式”を行った」


「……」


「”転生者の救世主が世界を救う”……そんなお伽噺に縋る程に我らは窮地に立たされている。だからこそお主にはーー」


「あの」


 私は王様の話を遮るように話しかけた。


「……なんだ?」


「流石に二つ返事で了承できる訳無いんですけど」


「何…?」


 王様の眉が少し動く。


「こんな知らない所に連れて来られて、状況も分からないのに救世主になってくれって…流石に無理あるでしょ」


 私の言い草に周囲の人達から怒りの雰囲気を感じるが、そんな事は気にしていられない。私は被害者なのだ、こんな変な事に巻き込まれるなんて御免被る。


「そこにいる騎士?みたいな屈強な人達で何とかならないなら、私みたいな普通の女に何かできるとは思いません」


 王様は私の言葉に一瞬眉を顰めるが、直ぐに真剣な表情に戻った。


「突然このような事を言われて混乱するのも無理はない。だが我らの事情も理解して欲しい」


「そんな勝手な…」


 すると王様は立ち上がり歩いてきたと思ったら、あろうことか跪いてきた。その様子に周囲の人達からどよめきが起こる。


「我らではない」


「え…?」


 王様を見ると、目に涙が浮かんでいた。


「この国には二千万もの民がいる。国をここまで豊かにしてくれた彼らの命を、私は救いたい」


「……」


「頼みを聞いてくれないだろうか?私ではなく、何の罪もないイグニアの民の為に、どうか救世主を引き受けて欲しい」


 王様がそう言うと、周囲にいた全員が一斉に跪いた。


 その中にはローブを渡してくれた女騎士のアメリアさんもおり、肩を震わせながら跪いていた。怒りなのか悔しさなのか分からないけど、その感情が昂っていることが分かる。


「問題を解決した暁には、其方の頼みを何でも聞こう」


 そんな事言われても困る。私はただの女子高生だし。


「どうか…どうかお願い申し上げます」


 大の大人が私に頭を下げ、あろうことか涙を流している。


「………」


 私はふと自分が纏うローブを見る。


 このローブはアメリアさんが渡してくれたもの。彼女は何となくとった行動だろうが、私の心は落ち着き、お陰で少しの安心感を覚えた。


 良い人だ。単純にそう思った。


 アメリアさんにお礼を言いたい。でも救世主になってくれという頼みを断れば、その機会は失われてしまうだろう。



 …もしアメリアさんのように優しくしていれば、私は光里に殺される事は無かったのだろうか?



 もしここで救世主を引き受ければ、私はアメリアさんのように良い人になれるだろうか……。下らない事をして殺された私でも、”ありがとう”って感謝されるような人生を送れるだろうか?


「………」


 何の偶然か、見知らぬ世界に記憶を持ったまま召喚された。私にはチャンスが与えられた…ような気がする。下らない人間から、まともな人間に変わるチャンスを。


 だったら……。


「顔を上げてください」


 すると王様はゆっくりと顔を上げた。彼の目には涙が溜まっており、その足元には涙の水溜りができている。


「私が救世主だって言うなら…引き受けます」


「今、なんと……?」


「私に出来ることがあれば、あなた方を手伝わせて下さい」


 王様は私の言葉に目を丸くさせた後、力強く立ち上がった。そして高らかに宣言する。


「このガイウス・イザリウス・レマノス・トレーサの名に置いて、アカリデス殿に救世主の称号を授けます!!」



 この瞬間、私はイグニア王国の救世主となった。



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