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#12 式典当日

 *



 テッペンまで登り切っていない太陽が良く見える青空の下、デイス宮殿の中庭には大勢の人が集まっていた。普段は一般人が立ち入ることができない場所なのだが、今日ばかりは違う。


 “大蛇災害追悼復興記念式典”


 一週間程前に突如起きた大蛇の襲来。レモラの街の周囲に発動されている強固な防護結界を物ともせず、9本もの首と巨大な体で中央通りを壊滅的状況に追い込んだ未曾有の大災害。発見から僅か十分程にも関わらず、レモラの民は呆気なく死んでいった。


 大被害を受けてレモラの民達は途方に暮れたと思われたが、人々は希望を捨てずに今日まで復興に勤しんできた。何故そうなったのか。それは大蛇が何者かによって倒された事を知っているからである。


 ある者はイグニア最強騎士アメリア・アンテリアヌスが倒したのだと言い、また別の者は紫の力が大蛇を葬ったのだと言う。はたまたガイウス・トレーサ王が真の力を顕現させて屠った…なんて話も出る始末。噂は所詮噂にしかすぎない。だが真実を知りたい人は大勢いる。だからこそ、普段は集まりの悪い民達がこぞってデイス宮殿に来たのだ。



 デイス宮殿の中庭が喧騒に包まれる中、宮殿の張り出し部分にガイウス王が登場した事により静寂が訪れる。


「先ずは祈ろう、亡くなった尊い命に……」


 ガイウス王は拡声の魔術を発動した後、亡くなった人を慈しむように目を瞑る。そして祈りを捧げた後、彼は眼前に広がるレモラの民を見渡す。


「今日この場所にいる者いない者問わず、過去から現在に至るまでイグニアに身を捧げた者達がいる」


 ガイウス王は堂々とした佇まいで喋り始める。


「二百年前。我らの祖先はイグニアという大地に国を誕生させた。彼らは尊い信条で国の土台を創り、またある者は歴史を創った。そしてこの場にいる者は文化を発展させた。しかし、魔物による被害が増加した事により、築き上げた”イグニア”という国は危機に瀕してしまった」


 ガイウス王は寂しげな表情をする。


「そして先日の大蛇襲来。大蛇は先人が作り上げた歴史を破壊するに飽き足らず、イグニアに住む尊き命を奪った」


 ガイウス王は一呼吸置き、再び演説を始める。


「だが諦めないで欲しい。其方らはイグニアの希望であり”イグニア”の民なのだ。我らレモラ政執会もお力添えするゆえ、どうかその手でイグニアを復興させて欲しい」


 いつもの綺麗事ばかりの演説か……民が失望して帰ろうとした時、ガイウス王の奥から見た事の無い女性が歩いてくる。


 その女性は庶民では決して手に入らないような立派な上衣を羽織っており、特徴的な金髪を靡かせる美しい女性だった。イグニア王国の者とは思えない顔つきをしているが、この国で最も美しいとされるアメリアにも引けを取らない顔立ちに全員が目を奪われる。


「皆も知っておるだろう。我が国最大の戦力であるイグニア騎士団を持ってしても倒すことができなかった大蛇に、その身ひとつで倒した”救世主”がいることを」


 ガイウス王はニヤッと笑った後、出てきた金髪の女性を目立たせるように横にずれる。


「その救世主の名は……アカリデス・アルカディウス・イグナス」


 名を呼ばれた救世主は目を見開く。


「レモラ王宮が壊される中、彼女は突如となく現れた」


 ガイウス王は間を置いた後にアカリデスを見て頷くと、彼女も答えるように頷く。


「救世主はイグニアに降りかかる災厄という雨を振り払い、パーメステスのように我らを祝福する力を持つ。その力を……其方らに見届けて欲しい」


 ガイウス王が仰々しくそう言うと、横にるアカリデスが天に拳を掲げた。すると彼女の腕から”紫”の現主流が発現する。


 その様子に人々は目を疑った。


 人類最高の大魔術師アーゼスでさえ、濃い赤色の現出流だとされている……にも関わらず、アカリデスと呼ばれた女性はそれすらも凌ぐ紫の現出流を顕現させた。その光景に人々は息を呑み、今から歴史の生き証人になる事を直感する。誰もが思ったそう直後、アカリデスの拳の先に円形の術式が形成されていく。


 “迸る炎の魔術”


 発動する事が丸わかりな上に、どんなに強力な魔術師でも然程威力が出ず、火起こし以外に使われることがない魔術。そんな魔術を発動してどうする気だ。


 しかし人々は度肝を抜かす。集まった者達だけでなく、アカリデスの隣にいたガイウス王に加え、後ろに控えるイグニア騎士団も目を丸くさせて驚いた。


 大きな音ともに放たれた炎の範囲は大蛇よりも大きく、迸る姿は竜が天に昇るような勢い。デイス宮殿からは炎の先が見えず、見えるとしたら遠くに住む人達だけだろう。そして人々は死を察する。これだけの巨大な炎、並の魔術では到底防げない。我らは熱風に晒されて死んでしまうだろう。


 しかしレモラの民達はアメリアの発動した”盾の魔術”により、なんとか防がれるのだった。しかし発動した盾の魔術にはヒビが入っており、もう少し"迸る炎の魔術"の発動時間が長ければ民達は死んでいた。それ程までに強力な魔術だったのだ。



 人々は絶句する。こんな魔術、人間が発動できる筈がない。あまりにも規格外だ。もし発動できる者がいるとすれば、それは大蛇のような化物だけだ。民達は恐怖を感じるも、その目にふと映った。右腕を天に掲げ、金色の神々しい髪を靡かせる美しい女神が。


 集まった民達は大歓声を上げる。救世主様と呼ぶ声や女神と呼ぶ声に加え「アカリデスさまぁ!」と言った黄色い声援までも聞こえてくる。その中に「流石アメリアさまだわぁ!」と呼ぶ声もあったが、今は気にしている時ではない。


 そんな民達に対し、救世主アカリデスは笑みを向ける。その笑みは聖母と錯覚する程に優しく、民達を暖かく照らす焚火のような笑みだった。


「私はアカリデス。アカリデス・アルカディウス・イグナス。イグニア王国と、貴女達の救世主として馳せ参じました」


 拡声の魔術を使用して喋り始めるアカリデスを、民達は食い入るように見つめる。


「レモラの皆さん、どうか諦めないで?どんな災厄が降り掛かっても、イグニアの民には強い炎が宿っています。だから恐れず、希望を持って前進してください。私は”イグナス”として、皆様の進む道を照らす”灯り”になりますから!」


 アカリデスはそう言った後、この場に集まった全員を見るように手を振った。すると人々は再び歓声を上げ、心に熱い炎が芽生えるのを感じるのだった。



 その後、救世主アカリデスは”王直属特別魔物対策部隊イグナス”の隊長へと任命され、式典は無事終わりを迎えるのだった。



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