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#0 プロローグ

 *



 石で出来た柱が何本も建てられている。しかし相当昔に建てられたのか、途中で折れて地面に転がっている柱が何本もあった。奥には何かを模って作られた石像が建てられており、優しげな表情で広間を見下ろしている。


 そして石像の前、古遺跡には似ても似つかない異形の存在が佇んでいた。


 女性の顔に砂色の綺麗な長髪。灰色の肌が人間とは違う生物を思わせるが、やはり上半身だけ見れば美しい女性だ。


 しかし上半身だけなのだ。彼女の下半身は獅子のように屈強なものとなっており、指先には鋭い爪がある。私みたいな人間なら簡単に刺し殺せるだろう。


 そして図体もでかい。象よりも大きく4本の屈強な足を持つ彼女の名はーーピース。一言で言えば女の化け物。平和を謳っているような名前だが残虐極まりなく、“火球の魔術”で何十人もの命を奪った。


 殺された人達の姿が脳内に焼き付いている。黒焦げで誰か判別がつかない死体に、崩れた建物の下敷きとなり、生気を感じない瞳で私を見つめる兵士の死体。


 簡単に命を奪う化け物だが…それを物ともしない力が私にはある。自身に宿る”紫色”の力を食らわせてやれば、ピースなんて簡単に殺せる。殺せるのに……。


「隠れてたから何か考えていると思っていたけれど…やっぱり何も出来ないわねぇ?」


 ピースは憎たらしい笑みを浮かべて私を見下ろしていた。


「早く助けないとぉ…みんな死んじゃうわよぉ?」


 ピースの足元には兵士達が横たわっており、腕には女騎士が抱えられている。


「アメリアさん……」


 抱えられている女騎士ーーアメリアさんは肩で息をしており、時折苦しそうに呻き声をあげている。


「くっ…!」


 “身体強化の魔術”と”保護魔術”を用いた突進攻撃をすればピースを殺せるし、足元にいる兵士達も助けることができる。でも…抱えられているアメリアさんを反動で吹き飛ばしてしまう。ただでさえ重傷を負っているのに、これ以上衝撃を与えれば死んでしまうかもしれない。


 それはできない。彼女はかけがえのない大切な人なんだ。私が救世主になった理由であり、この世界で生きる理由でもある。


「いくら化け物みたいな力を持っていても、貴女は私を殺すことができなぁい……何故なら人質がいるからっ!!」


 何もできない私を見て余程嬉しいらしい。ピースは高笑いをして気持ち良くなっている。


「くっ…」


 こんなやつ早く殺してやりたい。でもアメリアさんが人質になっているから何もできない。


「その人を離してッ!!」


「離す訳ないでしょう?だって殺されちゃうんだから!」


 何の悪戯かこの世界に召喚されて、アメリアさんのお陰で”良い人”になれると思った。アメリアさんのお陰で救世主になろうと思った。


 そして強い力も授かったのに、何で私は彼女を救う事ができない。


「あっははぁ!無様な”救世主”様ねぇ!」


 ピースが気持ちよさそうに高笑いする中、


「あ、アカリデスさん…」


 大怪我で気を失っていた筈のアメリアさんの声がした。


「アメリアさん…!?」


「私に、構わないで」


「え……?」


 アメリアさんは絞り出すような声で私に語り掛ける。


「わ、私の命、よりも…救うべき命が、沢山ある筈です」


「い、嫌だ…!アメリアさんに死んで欲しくないっ!!」


「あ、貴女は…国を救う”救世主”です」


「駄目……!」


 アメリアさんは抱えられながらも、顔をあげて微笑んだ。


「使命を、思い出して」


「え……?」


「どうか……私の国を救って」


 アメリアさんは消え入りそうな細い声でそういった後、体がぐったりした。


「あ、アメリアさん……」


 死んではいないと思うけど、もう長くはない。何とかして助けたいけど、その方法が思いつかない。


「ほらほらぁ!私を殺さないと国が救えないわよぉ!?」


 ピースは下半身を左右に振って私を煽っている。


「使命……」


 “使命を思い出して”。


 そうだ。私には使命がある。たとえ犠牲を孕んだとしても、救わないといけない国そのものがある。


 頭の中に、今まで会ってきた人達の顔が思い浮かぶ。


「……そうだよね」


 私が死ねば、その人達が救えなくなってしまう。


「はぁ……何だか飽きちゃった。次のおもちゃを探さないと……」


 するとピースは片腕を上げ、その腕からは何本もの光の筋が現れる。”灰色”の光の筋は掌に集約されていき、段々と赤い球になっていく。どうやら私を殺す為に”火球の魔術”を発動しているようだ。


「くっ…!


 どうしよう。こんな時に限って私は怪我を負っている。先に魔術を発動して殺さないと、私は死んでしまうだろう。


「そうだぁ!貴女を殺した後に…この女を回復させようかしらぁ!」


 ピースは歪んだ笑みを浮かべてそう言った。


「そして貴女を殺したことを伝えるの……。あぁ、この女の歪む表情が目に浮かぶわぁ?その後にたっぷりと犯してぇ…それからぁ」


 化物は自身に訪れるであろう理想的な未来をたらたらと喋っている。


「…そんな事させない」


「へ……?」


 私は右の拳を前に出し、”術式”を組み始める。


「な、何をしているのかしら?」


「貴女を殺す魔術を発動しようとしています」


 私の言葉を聞いたピースから笑みが消える。


「そ、それは”迸る炎の魔術”よ?女どころか、そこで気絶する人間も灰になってしまうわぁ?」


 “迸る炎の魔術”。


 アメリアさんに最初に教えてもらった魔術だ。普通の人が発動しても、線香花火程度の炎しか出現しないが、私なら遺跡をも消し去る程の炎が出現する。


「この”炎”で貴女を消し去り、アメリアさんやその人達を弔います」


 そう言った直後、ピースの顔が醜く歪む。


「だったら今すぐに貴様を殺してやるッ!!!」


「残念、私の方が早い」


 ピースは魔術を繰り出そうとするも、私はそれよりも早く魔術を放つのだった。



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