◆真夜中のお散歩?
ガンッ バタバタバタ バッッシャーン
「何なんだいったい……」
早朝から不快な音で目を覚ましたイシルは眉間に皺をよせた。大方ルナが何かやらかしたのだろう、こんな朝早くから。
眠りを中断させられたことで不機嫌そうにだらだらと時間をかけて着替えるとルナがいるはずの二階の右端の部屋へと向かい扉を乱暴に開いた。
「おいルナ。朝から何やって……っ!?」
「い…イシルなんで起きてるのっ!」
ルナは何か見られたくないものでもあったのかイシルが居るのにも構わず、慌てて扉を閉める。
「ルナ……開けろ」
「何でもないってば!」
かちゃかちゃとドアノブを回してみるも、中から押さえられているようだ。
イシルは無理やり扉をこじ開けた。
わずかに開いた隙間から床に何百冊という本が散乱しているのが見える。
暫くの沈黙の後に扉がゆっくりと開く。
「だから見て欲しくなかったのに」
肩を竦めて見せると床に座り込んで散らばった本を片っ端から拾い集めていく彼女の頭にイシルはおもむろに手を置いた。
「ふーん……。どういう事かちゃんと説明してもらおうか」
「えっ……と、私忙しいからまた後で」
引きつった笑いを浮かべてそそくさと部屋から出ようとしたところでイシルに捕まったルナに残された選択肢は数少ないものだった。
「で?何で部屋にこんなに沢山の本がある?」
三百はゆうに超していそうな本の山。大して勉強熱心でもないルナの家にこんなに沢山の本があるのはどう考えたっておかしい。
「図書館から借りてきたの。全部で五百二十七冊あるのよ。あの紙の紋章について調べようと思って紋章のことについて書かれてる本をあるだけ全部借りてきたの」
「いつ借りにいった?」
「そうだね……イシルが寝て雨と雷が止んだ後ぐらいかな」
「それって真夜中か?」
どんどん顔が険しくなっていくイシルを見てルナは少し後ずさりした。
「まあ、そのぐらいだと思うけど」
「ったく……真夜中に出歩くなんてどういう根性してるんだお前は!もう少し危機感を持て」
「そっそんなこと言われたってイシル起こすの悪いと思ったし……今日は王立図書館定休日だから昨日の内に行っとかないとって思ったし……雨も止んでたんだもん」
ルナは詰め寄られてしどろもどろに言い訳を繰り返す。
「にしてもどうやってこんなに沢山の本をここまで運んだんだ?」
「それはもちろん魔法で浮かせて……でもこの部屋についたとたん気が抜けたのか魔力足りなくなっちゃって、それでどさどさっと全部」
「落ちたのか」
「その通り」
「そこまでして紙のこと調べたいのか?」
「うん」
即答され、脱力したイシルはルナの肩を掴んで言った。
「お前の好奇心は重々承知だ。何かする時はせめて一言声をかけてくれ。じゃないと心配するだろ……」
「うん、分かった。じゃあ今から紙の紋章は何なのか調べるから。手伝ってくれるのよね?」
いつもの調子を取り戻したルナはにこにこと続ける。イシルはわざとらしく言った。
「はいはい。仰せのままに、姫君」