◆雨に降られて
「急げルナっ!」
「ま…待ってよイシル! イシル走るの早すぎ、スピードおとして…」
「お前が遅いだけだ」
「何それひっどーい!」
「いいから、急げ。風邪引くぞ?」
「はいはい…」
イシルはルナの手を引っ張りながら走っていた。
…ルナはイシルのスピードについて行けてないので半ば引きずられているが。
時刻は数分前にさかのぼる。
「もう家帰ろう、イシル」
「ああ」
仲良く二人並んで家に帰っていた途中だったが、何やら急に日が陰った。
空を見上げてみると、灰色の大きな雲が辺りを覆い尽くす勢いで広がっている。
「やば…。雨降りそうだな」
「小雨だったらいいんだけどね…」
やがてぽつぽつと雨粒が落ちてきた。
最初は近くの木の下に入って雨宿りしていた二人だったが、ルナの願いも虚しく木の下に入るだけじゃとても防ぎきれない程雨は激しくなっていく。
「滝のような雨だね…イシル」
そう言った後、自らの体に降りかかる雨粒を見つめて溜め息をついた。
「これじゃ雨宿りの意味ないね…」
「仕方ない。走るか」
ぎゅっと手を握られ、
え? 何?
と焦るルナ。
いきなり視界が真っ暗になり、続いて頭にふわっとした軽い衝撃。
どうにか視界を戻そうともがいていると、頭にかかっていた何かがどけられる。
目の前には、イシルの上着とそれをつかんでいる手。
「濡れないように羽織っとけ。今からこの雨の中、走って帰るから」
「いいの? ありがとう。
でも、イシルは?」
お礼を言いながらイシルを見上げると彼は優しく笑って、ルナの頭に上着を被せた。
「いいから。ルナは風邪引きやすいだろ?」
「でも―――」
尚も食い下がろうとするルナの体が大きく揺れる。
イシルが手を引っ張ったのだ。
「わ、わわっ」
バランスを崩して転びそうになったところを抱き止められ、急いで体制を立て直すと、イシルが言った。
「雨が激しい…。早く帰ろう」