◆古ぼけた紙切れ
「んんんー?」
現在ルナは真紅のルビーとにらめっこ中だった。
だって。
何となく。
気のせいには――
出来ない気がして。
「やっぱり…ずれてる気がする」
「ルナ、何やってるんだ?」
じいーっと箱を見つめているルナを見たイシルが声をかけたが彼女はしらんぷり。
「無視かよ…」
だめだこりゃ。
イシルは軽く溜め息をつきその場に腰を下ろした。
「あ…開いたよイシル!」
突如として響く、ルナの声。
イシルは、ばっと立ち上がり彼女の手にある箱を見る。
確かに、開いていた。
開いて中が見えていた。中には、古ぼけた紙切れ一枚。
「なんだそれは…?」
「何って…紙じゃないの?」
「そうじゃなくて…、他に何か入ってないのか?」
「これ以外、なーんにも」
ルナが箱を逆さにしたりふったりしていたが紙切れ以外には何も入っていなかったようだ。
せっかく、金貨とか宝石とか、そういうのを期待していたのに。
…いや、ちょっと待て。
紙切れが宝の地図とかっていう可能性もある。
「紙に何か書いていたりしないのか?」
「ううん、全く」
「・・・・・・・そうか」
「うん」
イシルは、即答されて軽く落ち込んでいたがルナはにこっと笑うと右手の人差し指を立てた。
何をしているのかと不思議に思って見ていると彼女の指先に小さな炎が表れる。
「う、うわ…ルナ…魔法か?」
「そうだよ?無言詠唱」
「無言詠唱か…驚くだろう、いきなり。せめて短縮詠唱ぐらいしろ」
「えー、だってめんどくさいし」
別にいいじゃんー
と言いながら小さな炎を指から指へと移動させ、指先で弄んでいるルナ。
説明しよう。
魔法は呪文を唱えなければ普通は使うことが出来ない。
呪文は大概無駄に長いので最初っから最後までいうのはめんどくさい。
だからそれを短縮して短く縮めるのが短縮詠唱。
短縮詠唱も面倒な場合は、心の中で念じただけで魔法が使える無言詠唱を使う。
普通に詠唱するより短縮詠唱の方が難しく、短縮詠唱の中でも長い詠唱をどこまで短くするかによって難易度が変わってくる。
無言詠唱はさらに難易度が高くなり、上級魔法使い、いわゆる魔法の天才しか使うことが出来ない。
…まあ、練習を積めば多少は使えるようになるらしいし
さっきルナが使った魔法は元々難易度が低いからルナでも使うことが出来るのだ。
魔法を使わない俺にはあまり関係のない話だが、1ヶ月程前ルナの無言詠唱&短縮詠唱の練習に延々と付き合わされたからその位は知っている。
「じゃ、いっきまーすっ」
嫌な予感がして振り向いたイシル。
その目に映ったのは、ルナが箱の中にあった古ぼけた紙を指先の炎に近づけているところだった。
「なっ…やめろルナ!ストップストップ、止まれー!」
イシルがルナの手から紙をひったくった時はもう遅く。
炎に触れた紙の一部分が、黒く焦げていた。
「おっ…お前なぁ、何で魔法なんか使ったんだよ……紙焦げてるぞ?」
「だってー、火で炙れば何か地図でも浮かんでくるかなーって」
見当違いだったね…と少し肩をすくめて落ち込んだ様子を見せる。
「あーあ…黒こげだな、これ」
指先で紙の端をつまみ、目の前に持ってきてまじまじと見つめるイシル。
「何か重要なものだったとしても、もう使い物にはなりそうにもないな」
「ごめんイシル…。宝の地図とかだったかもしれないのにね…」
「気にするな。元々お前が持ってきた物だしな…。
それに、あの紙がいいものだったとは限らない。
ただの紙かもしれない。
そうだろ?」
残念そうなルナの頭をぽんぽんと叩いて、慰めようとする。
俯いていたルナは苦笑しながら顔を上げ、言った。
「もう夕方だし…。家帰ろっか、イシル」
「ああ…帰ろう」
二人は並んで歩きながら家へ帰り始めた。