◆穴、幻想的な世界
「どこまで行くのよー…もう…」
うさぎと一緒に歩き続けて数10分。
だんだんと飽きてきたルナは文句をこぼしながらもきちんと歩いていた。
本人曰わく、
だって『不思議の国のアリス』みたいに面白い事が起こるかもしれないじゃない、
らしい。
「うさちゃん…ここ入るの?」
うさぎが入っていったのは小柄なルナが屈んでやっと通れるような薄暗い穴。
「私暗いの苦手なんだけどなぁ……」
がさごそ、と鞄をあさること数10秒。
ルナの手には桜色のロッドが握られていた。
ロッドの先端にはルナの瞳の色と同じ深い瑠璃色の石が埋め込まれている。
そう。
これでもルナは魔法使いだ。
「月よ…闇を照らす灯火となれ―――。」
呪文が終わるとロッドの先が淡く光る。
まるで闇夜を照らす月明かりのように。
「これでよしっ…と」
ルナはカンテラがわりにロッドを掲げ、うさぎの後をついて行った。
暫く歩いた後。
「きゃああああっ!」
足下の地面が無くなった。
体は重力に従って下へ下へと落ちて行く。
まるで『不思議の国のアリス』にそっくり。
ルナはそう思った。
「何なの…止まって止まってよーッ!」
闇の中を落ちて行くという恐怖に堪えられなくなったルナが叫ぶと示し合わせたように落ちるのが止まって、地面に放り出されたルナは思いっきり背中を打ちつけた。
「………っ…たぁ…」
いたたたたた…。
なんだって私がこんなめに。
「うう…」
瞳を涙で潤ませながら何とか立ち上がったルナは信じられないものを目にする。
地下の筈なのに大きな木が何かを守るように沢山ある。
地面は緑の草で敷き詰められ、花が咲き乱れ蝶々が舞っている。
そんな、幻想的な空間。
中心には何か四角い箱に、大量の草の蔓が巻きついている。
茶色くて四角い箱は…よく見ると宝箱…?
にも見えた。
「ここ…どこ?」
あの時のうさちゃんが目の前にいた。
箱の方に向かって首を傾げる。
まるで――――取れと言っているみたいだ。
「取って…いいの?」
うさぎがいいよと言うように頷いたのを見たルナは恐る恐る箱に近寄る。
「取れって言われてもなぁ…」
草の蔓がしっかりと箱に絡みついている。
力任せに引っ張って、果たして取れるのか。
ルナがゆっくりと箱に手をかけ力を込めようとした、その時。
「…え?」
スルルッと音がしてあれだけしっかり絡みついていた草の蔓がまるでルナに箱を取って下さいとでも言っているように離れた。
もしかして、罠?
これを取ったら地下が崩れるとか、蔓が私を絞め殺すとか。
思わず物騒なことを考えてしまったルナはその考えを振り払うように首を振り、目をつぶって一気に箱を引っ張り出した。
「何も…起こらない…?」
数十秒後、目を開けたルナは四角い箱をまじまじと見つめる。
よく見るとそれは、とても綺麗な物だった。
茶色がベースの四角い箱は所々に小さな宝石が散りばめられている。
ルナにでも、一目で高価な物だと分かった。
「綺麗な…箱……」