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1989年 春 病院

1989年 春 病院


「はぁはぁ」


息を切らしながら直樹の働いている病院の最寄駅から全速力で病院に向かう。1時間ほど前に雪乃さんから「直樹が勤務先の病院で倒れた」との連絡があった。


病院に着いてからは、総合受付で直樹の病室の番号を聞き、焦る気持ちを押し殺して小走りで病室に向かった。病室の前では雪乃さんと先生らしき人が話をしていた。


「なぉぎわぁだいじょぉぶ...」


息が上がりすぎて上手く喋れない。それを理解した雪乃さんは、


「大丈夫よ、さっき目を覚ましたから。お医者さんが言うには、疲れが溜まったのだろうって」


といつもの優しい声で私を安心させるように答えてくれた。


恐る恐る病室のドアを開けると、直樹は窓の外を見るように横になっていた。私の顔を見るなり少しため息をついた。


「なんだよ、姉ちゃんみちにも連絡したのか。ほんと大袈裟だな」


大丈夫だと言わんばかりにいつものように振舞ってはいるが、何かが引っかかる。いつもの直樹の調子ではない。研修医として働き始めてからは、良い意味と悪い意味両方で色々な顔を見せてきたが、今回ばかりは何か大きなことが関連している。


「何かあったなら、言える範囲でおしえて」


今までは仕事関連についてはあまり干渉しなかった。医療のことなど微塵も知らない私がしゃしゃり出るものではないと思っていた。今更になってそれを後悔する。


直樹はまた窓の外を眺めながら話をし始めた。


「前に小児科での研修が始まったって言ったろ。そこで1人小学生の男の子がいたんだけど、なんとも小さい頃の俺にそっくりでさ。早く元気になって始業式に出て皆んなを驚かせるんだ、なんて言ってたんだけどな。先週急に症状が悪くなって、亡くなっちゃったんだ」


心が痛いくらい淡々とした口調で話す直樹。感情を出さないようにしているのだろう、それでも淡々と話すその姿が逆に直樹の感情の重さを表していた。


「ほんと俺ダメだよな、この仕事しているからには個人に感情移入なんてもってのほかなのにな。ってみち、手痛いから」


いつの間にか直樹の手を握っていた。そして、上手く直樹にかける言葉も見つからないことが理由で余計強く握っていたのだと気づく。


直樹にとってこれが初めての死だったのかはわからない。直樹が感じているのが悲しさ、悔しさ、プレッシャー、正義、遣る瀬無さ、どれなのかもわからない。


でも1つだけわかること。直樹は今、私がどれだけ肩や背中、胸を貸そうが抱えきれないほどの感情や現実を背負っている。


死を扱ったエピソードなため、後書きコメントは控えさせていただきます。

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