1988年 秋 ドライブ
1988年 秋 ドライブ
何故か直樹は急にいきなり車を買った。大学の先輩に多少安く売ってもらったらしい。おかげで私たちの行動範囲はグンと広がった。
車を買った後は、会う約束のある日は私の家に迎えにきてくれた。両親はなかなかヒヤヒヤしているらしい。「ご近所の目も気になるし、迷惑にもなるから、家の前では吹かさないように伝えてね」と言われるようになった。
毎回ドライブの行き先は秘密。直樹いわく、ハンドルを握る人に行き先の決定権があるのだとか。そして今回もどこに行くんだろうななんて思いつつ、前日に時間をかけてダビングしたカセットテープを取り出す。
競馬場とビール工場のそばを通り過ぎたときだった。
「あんまり会えなくてごめんな」
なんとも直樹らしくない一言だった。少しびっくりしていると、チラッと私を見てすまなそうに、そして慰めるように笑った。
「早く立派な医者になったら許す」
「なんだそれ、でもまぁそうだよな」
一瞬ハンドルを握る手が強くなったように見えた。横顔からでは表情が読みづらい。それでも、また曲に合わせて楽しそうに歌い出した姿を見ると気のせいにも感じられた。
松任谷由実さんの1曲を鼻歌交じりに歌いながら書きました。
ちなみに直樹の車はベンチシートです。
個人体験談ですが、ベンチシートって広いようで意外と大人3人で前乗るとキッツキツなんですよ(笑)