1988年 春 寂しさ、慰め、控え
1988年 春 寂しさ、慰め、控え
直樹は医学部を無事卒業し、4月から晴れて研修医として病院で働いていた。お互いスケジュールが合わなくなったことが多くなったが、会えるときはできる限り会う約束をした。それでも前に比べると家の電話が鳴る頻度は少なくなった。
たまに雪乃さんから電話があり、ご飯に誘ってくれた。きっと直樹が忙しいことをわかっていて、気にかけてくれているのだろう。会うたびに、
「ほんと直樹も変に真面目なところがあるからね。家帰ってきたと思ったら、またすぐ机に向かって勉強してるのよ。ありゃ医学試験前よりもひどいわ」
などと明るく近況報告をしてくれた。そんな雪乃さんの優しさにいつも甘え、慰められていた。
(何か直樹にできないかな)
と考えるのだが、忙しいということ、そして一丁前の医者になるために真剣な彼の姿を想像してしまう。いくら彼のためともズカズカと勝手に決めた予定を押し付けるわけにはいかなかった。
高校の頃の知り合いが、いつの間にか立派な医者になっていました。
それを知った時、びっくりというより、やっぱりなという感情の方が強かったです。
とても頭が良くて、正義感の強い方だったので。