2024年 現在 蝶
2024年 現在 蝶
庭の金木犀の木にとまっている大きな蝶は、私と目が合い少ししてからひらひらと空高く舞っていった。
箒とちりとりを片づけ、家の中に戻る。お仏壇にお茶をあげ忘れていたことに気づきお湯を沸かす。義母が好きだったお菓子がどこかにあるはずと思い、お茶と一緒にあげようと探していると、携帯が鳴った。
見慣れない番号、出るべきか出ないべきか悩んだが、一応出て相手の声を聞き知り合いだと気がつく。
「もしもし、みちちゃん? お久しぶり、元気にしてたかしら?」
雪乃さんだった。相変わらず優雅な喋り方、それでも歳のせいか声に渋みを感じる。久しぶりの雪乃さんからの連絡、少し嬉しく思うと彼女は悲しい言葉を口にした。
「今日はね、みちちゃんに伝えたいことがあってね。先日直樹が亡くなったのよ。みちちゃんには色々とお世話になったと思って、ありがとうね」
よく話を聞くと、直樹は数年前から闘病していたという。今の世の中80〜100歳まで生きる人が多くいる中、直樹の死は早すぎた。
雪乃さんに私からの今までの感謝の意を伝え、電話を切る。切ったと同時に、直樹との楽しい思い出や辛い思い出、彼の仕草や匂い、全てが秒単位でフラッシュバックする。何十年も経っているのに、直樹との思い出は鮮明だった。そしてふと思い出す。
(あの蝶...)
虫の知らせとよく聞くが、さっき庭で見たあの蝶はきっと直樹自身だったのだろう。そう思うと、あんな大きさの蝶を目の前にしても気持ちが悪いと思わなかったことにも納得がいく。
直樹は最後の最後に私に会いにきた。彼なりの最後の別れだったのかもしれない。私と目が合い、何気ない日々を過ごしている私を確認して空に飛びだったのだろう。
私の人生の大きな一部が長い年月を掛け、ようやっと幕を閉じようとしていた。閉じる前に直樹に心から伝えたいことがある。
直樹、あなたと過ごした時間はとっても幸せでした。どんな辛い思い出だって、それはあなたと過ごしたって証拠だから、今では愛おしくも感じるよ。一緒にいたとき言わなかった言葉や言えなかった言葉が今思うと沢山ある。時間経っちゃって「今更遅えよ」って直樹なら言うかもしれないけど最後にちゃんと言わせてね。昔も今もこれから先もずっとあなたは私の恋であり愛であり大切な人。沢山のありがとう、そして愛してる。
「あれ?現在?蝶ってなんだっけ?」と思った方は1話「2024年 現在、そして1986年の出会い」の最初の部分を読んでいただければと思います。
P.S. 「ありがとう、愛してる」シリーズ、あともう1話あります。




