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1993年 秋 結婚

1993年 秋 結婚


朝晩が涼しくなり、隣の家の金木犀の花がフワッと香る。私は1週間後に控えた結婚式の最終チェックで大忙し。


直樹と最後に会ってから、気づけば4年の月日が経っていた。はじめの1年ほどは誰とも付き合わなかったが、新しい恋への心の決心と準備ができたと同時に素敵な人との出会いがあり、今へ至る。


結婚式の招待者のリストを見ながら、1週間後に旦那となる彼から「この人たちは会社のお得意さんだから、大変だと思うけど無理しない程度に覚えておいてね」と言われた人の名前を手元にある写真で確認しながら暗記する。家業を営む者の妻になる身としての最初のミッションだ。


(結婚式までに全員の顔と名前が一致するようになるかなぁ)


なんて思っていると家の電話が鳴った。お母さんに「みち、あなたへよ」と言われて受話器を受け取る。受話器を通しての声に驚いた。電話してきたのは雪乃さんだった。


「ごめんね、急に。風の噂でね、みちちゃん結婚するって聞いて。おめでとう」


「ありがとうございます。雪乃さん、あの...」


無意識に直樹のことを聞きそうになったが寸止める。雪乃さんは何も気付かなかったかのように話を続けた。


「あのね、実は直樹から伝えてほしいって言われたことがあってね。10月5日の3時に駅前の喫茶店で待ってるって」


(10月5日、結婚式の2日前...駅前喫茶店)


「みちちゃん、私は直樹の姉だけどこれだけはハッキリ言っとくわ。行くのも選択肢、行かないのも選択肢よ。自分でよく考えて決めてね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


10月5日 3時15分


「チャリン」


鈴の付いた喫茶店の重いガラスドアを開ける。そして店を見渡して、奥のテーブルに直樹を見つける。今回は私が遅刻した。


喫茶店、直樹、眼に映るもの全てが懐かしい。少し過去の記憶に浸り、直樹の前の椅子に座る。


「久しぶり」


「うん、来てくれてありがとうな」


少し大人っぽくなってはいるが、直樹は昔と変わらない。それから少しして2人でアイスコーヒーを頼む。それからまた数分経つと、店長が冷えたアイスコーヒーを持ってきた。


「結婚おめでとうな」


直樹におめでとうと言われても心が曇るだけだった。


「ありがとう、でも直樹に言われるとなんか複雑かな」


最後だと思い正直に答える。直樹も耳の後ろを掻きながら頷く。


「今日は最後に会った時のこと謝りたくて呼んだんだ。なんでもっと早く謝らないんだとか、なんでこのタイミングなんだって思うかもしれないけど、許してほしい。辛い思いさせてごめん。今も昔も全部俺のペースでごめん」


率直な謝罪。言葉を選びながらの謝罪ではなく、飾らない心の底からの謝罪。少し心が晴れた気がした。


それから2人ともアイスコーヒーを飲み終わるまで色々と話し合った。付き合っていた頃は奢られたら次奢るスタンスだった。前に会った時は直樹がお代を出したので、今回は私が出した。


2人でゆっくり駅のプラットホームまで歩く。路線は一緒だが、帰る方向は正反対。皮肉にもまるで私たちの人生のようだと感じる。そして、先に直樹の乗る電車が到着した。


「じゃあな」


と小さく手を振って電車に乗る直樹。電車が発車し、(最後の別れはこんなにも淡々か)と思い下を向いると直樹の声が聞こえた。


「みち!幸せになれよ!」


顔を上げ、すでに小さくなりつつある電車を見つめる。そこには窓を下ろし、体半分外に乗り出し一生懸命手を振る直樹がいた。


これで最後。電車と直樹、点になって見えなくなるまで見たいのに、その前に視界が少し滲んでしまった。

当初10話以内で終わらせるつもりだったのですが...

「ありがとう、愛してる」シリーズ、あともう少し続きます。

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