2追憶出会い
思えばあの日は茹だるようなそれは暑い夏だった。朝からの大量の蝉の声に汗ばむわきの下を見ながらうんざりしていた。町は夏祭りの出店やお囃子・太鼓の音に誘われた人で溢れ返っていた。夏祭りは再会を喜ぶ夏の風物詩だった。カップルには待ち焦がれた夏の日でもあった。この日ばかりは相手にしてくれる人を探し出すのは至難の業だった。この時の佐知には彼と呼べる相手はいなかった。お誘いの声がかかり何年かぶりで夏祭りへ足を運んでいた。約束の店に入ると1画だけが不思議アートのように浮き立っていた。1人2人・・5人・・もっといる
「佐知遅いよぉ~ こっち、こっち、早くおいでよ」
小中高と一緒だった真砂子の声がした。合唱部のソロで数々の賞に導いた声は健在で辺りの人を振り向かせた。
「しまった 引き返す前に見つかってしまったわ」
見知らぬ人の前は大の苦手、こんな時の自己紹介はなおのこと。学生時代の赤面症と震え声に笑われた光景が浮かんでいた。この思い出は胸の引き出しに封印されたままだった。ここであの引き出しを開くのは絶対いや、来なきゃよかった・・キャンディをころがす口先が震えていた。
「みんなに紹介するから早く来て早く~」
腕を捕まれ奥に引き摺られていった。
「さっき話した佐知のご到着よ。みなさん宜しくね」
「はじめまして、遅れてすみません」
「佐知、ここに居るのはみんな彼の友人よ」
マネキンに似た彼はいつもの含み笑いを見せていた。真砂子の彼この男だけはどうしても苦手だった。この男を知るのはむずかしい数式を解くようなものだった。資産家の御曹司で頭脳明晰・色男、完璧すぎて手も足も出ない。いつも季節はずれの雪だるまが脳裏をよぎった。ミステリーの謎解きのようなサスペンス男だった。その友人たちと聞けば益々帰りたい気持ちに襲われた。気がつけば男たちの彼女らも合流し店内は手狭になっていた。彼の膝に乗る真砂子の姿がやけに妖しく思わず耳を熱くした。
「そろそろ出ようか」
彼のひと声で一行は次々席を離れていった。
「佐知もまだ大丈夫でしょ、一緒に行こう」
口は重く閉じ言葉ひとつ出てこなかった。
「さぁきまりね、行こう行こう」
囚われの身の様につかまれた体は上半身だけが前に倒れた。根が生えたような両脚が帰りたい気持を映し出していた。