7 犯人はお前だ! ~お姉ちゃんどいて、そいつ殺せない!
気分は、暴れん坊将軍
王道の、異世界ファンタジーです(←強調)
真相は今話でなく、次話となります。
「アンダロ、明日はリリアム嬢の護衛を頼む。
俺の護衛は、王都から来てくれた護衛に任せる。
ロサ、一つ、頼まれてくれるか?」
明け方からの大捕り物は、思いのほか静かに終わった。
マチャント商会を領軍兵士で取り囲み、商会長とアートロル一味を速やかに制圧し、逃げ出そうという者はその場で捕らえた。
ならず者の一部、酒場に繰り出していた者や商会の外にいた者も兵士を張りつかせていたため、一人も残さず捕らえられた。
何も知らない一般従業員は、後日、聞き取り調査に行く旨を伝え、逃げようものならその場で罪人扱いすると、家人にも厳しく申し伝えられ。
商会長とアートロルの二人は、後ろ手に魔法錠をかけられ、小代官屋敷まで引き立てられた。
「どういうことですか、これは!
領軍兵士がなんだってこんなことを。
一体、何がどうして、理由を説明してください!」
力づくで引き立てられはしたが、口までは閉じられず。
有無を言わさず捕らえられ、逆に言えば、捕縛されて引き立てられただけで、他に手荒な扱いをされていないマチャント商会長が、エサを奪われた犬のように繋がれたまま、わめき立て、吠え立てる。
アートロルは静かなもので、隙あらば逃げ出そうとしながらも、周り中にいる兵士を見て、ふてくされたような表情を浮かべて黙っている。
小代官屋敷の使用人たちも、騒ぎに驚いて前庭に集まる中。
第二王子が前に出て、ゾルシャ兵士長に命じた。
「小代官殺しの容疑で、領都へ送れ。
宿場町の司法庁ではなく、直轄領都の本庁へだ。
そこで、王太子殿下直々の沙汰を待て。
以上だ、連れていけ」
明け方の大捕り物から始まり、とうに上った朝日に金髪を輝かせ、第二王子が空の青の瞳で二人を睥睨した。
慌てたのは、捕らえられた二人だった。
なぜなら昨日、『真実を告げる魔法』で、判定してもらったばかりだったのだから。
「お待ちください! 殿下、昨日、裁定されたではありませんか!」
必死に言い募るマチャント商会長に、第二王子は冷たく返した。
「あんな魔法で判定した言葉、誰が信じるとでも?
殺しましたと、素直に反省していれば良かったものを」
息を飲み、声を失うマチャント商会長に代わり、今度はアートロルが声を張り上げた。
「俺は雇われただけの護衛だ!
この商人が何をしたか知らな……知りませんが。
ただの護衛は関係ないでしょう!」
逃がしてくれとへりくだり、アートロルは追従の笑みを浮かべた。
「それがお前の言い訳か?
謀の声を聞き、自ら進んでその手足となって働いた者を、護衛とは言わん。
お前も同罪だ。
殺しましたと素直に白状して、懺悔の一つでもすれば良かったものを」
すげなく断る第二王子が、改めて二人にあきらめろと申し渡す。
「執務室の本棚が隠し扉になってるのが見つかってな。西側の通路に繋がっていたと。
小代官との話し合いが終わって一旦部屋を出た後、マチャントがホールで執事と話し込み。その間に、アートロルが隠し扉を通って執務室へ。
本棚の隠し扉は、ちょうど執務机の真後ろでな。
机に向かっていた小代官を背後から刺し殺すのは、お前には簡単だったか。
傷は心臓近くを貫通していた。手慣れた兵士の所業にしか思えん」
動かしようのない事実だと淡々と告げる第二王子に、それでも二人は食い下がるが。
「信じてください、本当に、本当に、私は小代官様を殺してません!」
「殺してない? そうだな、命じただけでお前自身は殺してないな」
「ち、ちがう、本当だ、俺は誓って、殺してない!」
「殺してない? そうだな、殺意を持って殺すように命じたのはお前じゃないし、刺しただけで殺してはないな。
残念だったな、あの欠陥魔法のことは、お前たちより詳しいんだ」
間髪を入れず、第二王子は切って捨てた。
「そも、『真実を告げる魔法』で、小代官を殺したかどうかなんぞ確認しておらんわ。
いくらでも言い逃れができる状況で、真実が白日の下にさらされるなどとは、一カケラも思っておらん。
『シィロック商会に手を出してないよな?』
『シィロック商会長が死んだそうだが、身に覚えはあるか?』
お前たちは揃って、『手を出してない』『覚えはない』と言ったな。
あれが最後の慈悲であった。
小代官に唆され、脅され、流された結果であれば――大人しく罪を告白しさえすれば、情状酌量の余地があったものを」
騙したのか、嘘です、そんな、違います、命じられて仕方なく、おまえが、あんたが――わめきたて、なすりつけ、果てに言い争う二人に。
「ロビン=シィロックは殺したが、小代官は殺してない、と?
お前たちの言葉を、今さら、信じてもらえるとでも思っているのか」
連れていけ、と再度、第二王子はゾルシャ兵士長に命じた。
「妾腹の第二王子とは言え、これでも宮中育ちでな。
騙し合いで、勝てるとでも思ったか。
――兄上の顔に泥を塗る、賊徒どもめ」
「本当です、本当に、殺してません、これは嘘じゃない、信じてください!」
引き立てられていく二人が、信じてくださいと声も枯れよとばかりに大声を張り上げるが。
兵士の一人が、うっとうしそうな声でぞんざいに告げる。
「お前たちの言うことに、耳を貸す奴がいるわけないだろう?
ほら、早く歩け」
いやだ、ちがうと叫ぶ声に、応える者はいなかった。
「待って! 退いて、放して、お願いっ。
お願いだから、退いて!
そいつを殺さ――」
屋敷の住人たちが、大捕り物に物見高く騒ぐ中。
屋敷の入り口すぐ近く、群衆からは少し離れた場所で、一人の少女が水汲みの天秤棒を持ったまま、ロサ嬢に強く、そして怪我をさせないよう優しく、抱きしめられていた。
◇ ◇ ◇
許さない、絶対に許さない。
お父さんは、不正なんかしない!
偽の営業許可証なんて、絶対に嘘よ。
誰かに騙されたに決まってる。
どうして?
どうして代官様に言わないの。
どうして代官様は助けてくれないの?
ちゃんと真面目に働いて、きちんとお金も納めていたのに!
お母さんも、叔父さんも、あきらめろって。
どうして神様は助けてくれないの。
あんなにちゃんとお祈りにいったのに!
みんなで神様にありがとうって感謝してたのに!
何一つ、助けてなんかくれないのね。
許さないわ。
絶対に許さない。
代官様も。
神様も。
大っ嫌いよ。
第七話 「犯人はお前だ!」
~お姉ちゃんどいて、そいつ殺せない!~
end.
元ネタからすれば、お兄ちゃんどいて、なんですが。
アンダロがリリアムさん以外を抱きしめる図が思い浮かばず。
妥協><
……ところで。沙汰ってさんざん書いていますが。
洋風な言葉で、なんて言えば良いのかわからず。
和風な沙汰、で通してしまいました。
ご容赦ください。




