ゲームオーバー
ゲームスタート。
急に王女がモンスターに誘拐された。
警察に電話かければいいじゃないかと思うけれども、そうも行かない。
この世界に警察はいない。
端的に言えば、治安が悪いのだ。
国家として機能していない。
だから、僕が救出しに行かないといけないのだ。
急にどこかの山中に放り出された。
ここからステージが始まる。
後ろは木々で行き止まり。
前には、なんとか人一人、通れるような暗いケモノ道。
他に道はない。
僕はここまで、どうやってきたのだろうか。
僕はこんな所で何をしていたんだ。
こんな所に居ては、王女を助けられない。
でも、その前にとりあえず進んで、町に行きたい。
薄着なので、寒い。
カーディガンくらい欲しい。
Aボタンを押すと、パンチ。
前に向かって、正拳突きをする。
Bボタンを押すと、上段蹴り。
ほうほう。これがパンチでこれが上段蹴りだな。
わかった。
これで敵をやっつけていく訳だな。
そこに丁度、真正面から熊ゾンビが歩いてやってくる。
ちょっと待て。
一番の雑魚的が熊ゾンビだと。
最初の敵なんて、スライムとかゴブリンとかが相場じゃないのか。
そりゃあ、このご時世、ちょっとくらい敵キャラも捻らないといけないということか。
熊ゾンビはとても醜い姿をしていた。
眼球が片方だけ飛び出し、口は開きっぱなしで涎らしき、粘液を垂れ流している。
全身にボロボロの布を巻き付き、皮膚はところどころ剥がれ、肉は腐食し爛れ落ち、一歩歩くたびに腹から、ドボドボと臓器を落としている。
ただ、爪だけは腐敗せずに、鋭利な凶器としての性能を保っている。
とにかく判定に気を付けないと。
自分の判定にあたる前に、倒さないと。
まだ数メートル離れているはずなのに、腐臭が漂う。
こっちが風下なのか。
なんて臭いだ。
「おげぅっ!」
思わず、えずいてしまう。
その間にも、熊ゾンビはゆっくりと距離を詰めてくる。
僕はさっき練習したように、熊ゾンビに向けて正拳突きを放つ。
Aボタンが押されたのだ。
だが、熊ゾンビは素早くしゃがむと、雄たけび上げながら、雑に腕を振り回す。
まともに受けてしまい、吹き飛ばされる。
よろけた所に、もう片方の腕が伸びてくる。
身体が爪で引き裂かれ、目の前が真っ暗になった。
残機1。
初期配置からスタートする。
一度、死んだはずだが、ライフは最初から三機あるようだ。
自分の命は三つ。
ようするに、三回死ねる。
一回死んだので、あと、二回は死ぬと終わりな訳だ。
逆に言うと、あと一回は死ねるということになる。
今度はパンチでなくて、キックをしてみよう。
上段蹴りだ。
と思っているのに、パンチを出している。
別のボタンを押したようだ。
バカバカバカ。
へたくそ。
そんな操作じゃ俺は、また死んでしまうぞ。
前から熊ゾンビが近づいてくる。
危ない危ない。
おっ! ちゃんとボタンを押したようだ。
俺は上段蹴りを出す。
ゾンビのクビを吹き飛ぶ、勝利を確信したが、ゾンビは軽くスウェーして避けると、蹴りの隙にタックルしてくる。
そのまま、なすすべなくマウントを取られ、爪で肉体を何度も引き裂かれる。
防御なんて無意味。
何度も爪で肉体を貫かれる。
おいおい。
熊ゾンビ強すぎるってー。
僕は死んでしまった。
残機ゼロ。
またしても、初期配置からのスタートだ。
どうする。
どうする。
もう死ぬことは出来ない。
そう思っていると、俺はジャンプしていた。
なんだ。俺はジャンプが出来るじゃないか。
これだ。
よし、もう熊ゾンビとは戦わない。
ジャンプで避ければ良いんだ。
なんだ。
そういうことか。
意地が悪いゲームだ。
熊ゾンビが歩いてくる。
俺は高々とジャンプする。
ベアーアッパー。
真下から身体を引き裂かれる。
なんだ。このゲームは。
ゲームオーバー。