忍者が仕事を果たすようです その1
さらに、二人がここまで近づいてきたことでわかったことが一つあった。
結晶鎧竜が一体今どんな状態にあるのかということ。それが判明したのだ。
結晶鎧竜は戦っている。どうやら脇目も振らずに全力で、何かと応戦しているらしい。
その相手が誰であるのかも、近づくにつれてハッキリした。
小さな、人間。深紅のドレスを身に纏った少女。
結晶鎧竜はそれと戦っているのだった。
少女が一体誰なのかは言うまでもない。カティだ。
カティと結晶鎧竜の真っ向勝負。それが二人の目でも確認できる距離にまで近づいてきた。
山のように巨大な竜と、見た目は華奢な人間の少女。
その両者の戦いは、まさしく〝凄絶〟としか言い表しようがなかった。
両者は真っ向から殴り合っていた。
竜の方はその巨大な腕で、爪で、牙で、脚で、尾で。それらを駆使して、少女の身体を徹底的に打ち据える。
どの攻撃も普通の人間であれば即死は免れない。跡形もなく消し飛んでもおかしくない。そんな破壊力を持ったものである。
しかし、それを受け止めながら、少女の方もまったく退くことはなかった。
殴られ、吹き飛ばされ、押し潰され。幾度もそんな攻撃を受けているというのに、少女はすぐさま立ち上がって竜へと向かっていく。
死んでいてもおかしくない。というか、死んでいるべき状態。少女の身体はドクドクと血を流し、あらゆる部分がメチャクチャに折れ曲がっている。
それなのに、その状態が強引に元に戻りながら戦っているのだ。
それだけでも異常だというのに、まだ重ねて異常な光景があった。
刃だけで身の丈程の大きさもある大戦斧。それを自在に振り回して少女は戦っている。深紅のドレスを翻して駆け回りながら。
そうして、殴り合っている。そう表現できた。
何故なら、その少女の大斧の一撃もまた、竜の身体をよろめかせているのだ。
少女の大斧が竜の腕とぶつかれば、腕の方が弾き飛ばされる。力負けをした竜がふらつく。
思いっきり跳び上がった少女が大斧を振り下ろす。それが脳天に直撃すれば、竜の方が地面に叩きつけられる。
竜が振り回す尾を少女が大斧を盾にして防御する。その直撃で吹き飛ばされることもなく、少女は受け止めてその場に踏みとどまる。
いずれも、目を疑うようなありえない攻防であった。いや、自分の目どころか正気を疑いそうになる。
少女の人間離れした、いや、もはや人間の域を超越した頑丈さ。回復力。そして、腕力。
それらが合わさることで、この壮絶な〝竜と少女の殴り合い〟は成立していた。
それは、あまりにも理解を超えた光景であった。
到底、現実とは思えない。夢か幻か。いや、もはや悪夢に近いとすら思えてしまう。
あそこで戦っているのは、人間じゃない。確実に違う何かだ。大声で笑いながら、心底楽しそうに竜と殴り合っているアレは。
カティの仲間であるはずの二人ですら一瞬そう感じて、慄いてしまう。
そんな戦いが、向かっていく先では繰り広げられていた。
自分達も今からあそこへ乱入していかなければならないというのに。
本当にそうするのかどうか、ちょっとだけ二人でもう一度よく話し合いたくなってしまった。
しかし、どうもそんな風に一瞬だけたじろいでしまったのがよくなかったらしい。
「あっ――」
クロウシが不意にそんな声を発した。
何かやらかしてしまった。それに気づいたかのような声。
それを聞いたスタルカにも嫌な予感が走る。
「やべっ、結晶鎧竜と目ぇ合っちまった」
さらっとそんなことを頭の上で呟かれた。
スタルカの血の気が引く。それの意味するところに気づいて。
つまり、二人は向こうに気づかれた。捕捉されたということで。
「――――――――」
殴り合いの最中にある結晶鎧竜が大きく吼えた。
何かを合図するように。
その直後に、一つの動きが生じた。
結晶鎧竜の頭上で待機するように飛んでいた飛竜達。それが一斉にスタルカ達へ目掛けて急降下を始めたのだ。
恐らく結晶鎧竜がそれを命じたのだろう。自分達の戦いを誰にも邪魔させないために。これ以上の援軍を近づけさせないために。
そんなボスの命令に忠実に従って、飛竜達は一直線に突っ込んでくる。
それは突進――というより、もはや〝特攻〟に近い。
自分達の身体を後先考えずに思いっきり衝突させることで敵を食い止めるつもりらしい。
それでも、さっきのように二匹程度ならまだなんとかなったかもしれない。
しかし、今度の飛竜は〝六匹〟だった。
六匹が同時に、恐ろしい勢いでスタルカ達へと突撃をかけてくる。
「あー……流石に無理だなこりゃ」
それを見たクロウシがぽつりとそうこぼした。
完全に諦めてしまったらしい声で。




