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発射されるようです その1

「先行するって……どうやってさ。馬の速度はどんだけ飛ばしても一緒だろ?」


 それなのに、馬から下りちまってさらにどうすんだよ。クロウシが訝しげにそう尋ねてくる。


「走って行く。全速力で」

「はぁ?」

「全力疾走ならオレ自身が走った方が馬より速い。長距離ならともかく、これくらいなら……」

「馬鹿なんです!?」


 クロウシが素っ頓狂な声でそう言ってくる。

 確かにそう思われても仕方ない、無茶苦茶な話であった。


 だが、カティにはある程度の自信もあった。()()()()()()()()、という。

 それでも間に合うのかどうかは未知数だが……。


「他に方法がない。馬で行くよりも早く街に……っつーか、()()()()()()()辿り着かなきゃならねえ。どうしてもな。その必要が生じた」

「……一体どんな事情があるのか、深くは聞きませんけどね。いくらカッさんでもそりゃ無茶ってもんだぜ……」

「無茶でもなんでもやるしかねえんだよ。それとも、他に何か方法でも――」


 カティがクロウシをぎろりと睨みつけながらそう言う。

 クロウシの言うこともわかるが、今はつべこべ口出しされたくない。それを聞いている暇もない。

 だから、少し当たりの強い反応にもなってしまう。


 しかし、その時であった。カティの言葉を遮って――。


「――ございますよ」


 ブランがそう申し出てきた。


「カティ様がそうお望みなのであれば、あなたを古竜の前まで移動させられる方法がございます。それも、恐らくどんな手段よりも一番速いものが」

「――本当かッ!?」


 カティはその言葉に思いっきり食いついた。

 何でもいい。今あそこに何よりも素早くたどり着けるならば、藁にも縋ろう。


「どうするんだ!? 聖職者の奇跡の中にそんな類のもんでもあるのか!?」

「いえ、確かにとある奇跡は使用しますが……。カティ様を移動させるのは奇跡ではなく――〝コレ〟です」


 ブランはそう答えつつ、馬から下りる。

 そして、あるものを取り出すとカティへと見せてきた。


「……鞭?」

「はい」


 ブランが取り出したものは、昨日のゴブリンとの戦闘で振るっていた黒い鞭であった。

 縄のように編み込まれたそれを、ブランは服の袖から垂らす。


「私が振るうコレは、正確には鞭ではございません。名を『黒縄(こくじょう)』と言います。今は縄のように束ねて編み込んでいますが、糸のような細さにまで分解することも出来ます。私はその一本一本の糸を自在に出して操ることが出来るのです。それが、私のもう一つの能力です」


 ブランは「そして」と続けて、


「その糸を束ねて編む。その本数を調節することで、糸はこの縄のような鞭にもなれば、紐のような状態にもなります。糸の長さは……まあ、それなりの長さまでを出すことが出来ます。本数、量に関してですが……」


 そう言って、ブランは両腕を軽く広げた。

 すると、その両袖から夥しい数の真っ黒な紐が出てきて垂れ下がる。


「まあ、ざっとこんなものですね」

「……お前の能力が()()()()()()()()()()()()()()ってことはわかった。だけど、それでどうやってオレを移動させるってんだ?」


 カティは若干その光景に圧倒されつつも、冷静にそう問いかける。


 しかし、なんというか突如袖から大量の紐を垂らしてみせるブランの姿には多少不気味さを感じる。

 スタルカとクロウシもそう思っているのか、引き攣った顔で固まっている。


「『黒縄』は、束ねれば相当な強度になります。この紐くらいでも、少なくとも並の刃物では断ち切ることが出来ない程度には。また、かなりの〝伸縮性〟も兼ね備えております。どういうことかと言いますと、要するに、この『黒縄』は()()()()()()()()()()()()のです。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ブランはそう言うと腕を振るい、垂らしていた紐をあっという間にどこかへしまった。一本だけを残して。

 そして、残した一本をピンと張り、カティの前まで持ってくる。

 さらに、「真ん中を摘んで引っ張ってみてください」と言ってきた。


 カティは言われたとおりに摘んで引っ張り、放す。

 ブランの説明そのままの性質がその動きや感触から伝わった。


「つまり、()()()()()()です」

「どういうことだよ」


 にこりと微笑むブランへ、カティも思わずジト目でツッコむ。時間ないんだが。


「弓矢と同じ原理ですよ。この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。古竜へ向けて」

「――――っ!?」


 ブランはその笑顔を崩さずに、あっさりとそう告げてきた。

 流石のカティもそれを聞いて唖然とした顔になってしまう。

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