三者三様の戦い方のようです その3
スタルカの声はギリギリでカティのところまで届いていた。
それを耳にしたカティは攻撃の手を止め、背後へ振り向く。
スタルカ達のいる方向へ。一旦そうしてでも確認すべきことがあった。
「――――!?」
その時カティはすっかりゴブリンに囲まれていた。敵のど真ん中まで食い込んでいってかき回そうというのだから当たり前ではある。
とはいえ、カティの圧倒的な力任せの暴れっぷりにゴブリン達は一定距離から近づけないでいた。取り囲んでいるというのに、である。
近づくそばから無惨に捻り潰されていく。相手に傷一つ負わせることも叶わないまま。
そんな光景を見せつけられればゴブリン達が二の足を踏むのも当然だった。
しかし、そんなカティが突然攻撃を止めた。それどころか、自分達に背を向けた。
ゴブリン達は一瞬戸惑ったものの、即座にそれが好機だと悟ったのだろう。
一斉にカティへと飛びかかろうとしてきた。
だが、カティはそんな気配を感じとってはいつつも、まったく対処するつもりはなかった。
何故ならば――。
「~~~~ッ!?」
ゴブリン達がカティの背に攻撃を加えようとした瞬間、降ってきた雷に打たれてその全員が即死した。行動途中のままで。
雷の雨が降り注ぐ。カティのいる場所まで余裕で届くほどの広範囲に。
スタルカの範囲攻撃魔術によるものであった。
しかし、その雷は敵味方関係なく無差別に降り注ぐ。カティも当然雷に打たれていた。
だが、カティにとってはどうということはない。多少痛みを感じる程度。スタルカはゴブリン相手に威力を調整しているようなので尚更であった。
そうは言っても、普通の人間が無防備に食らえばタダでは済まない威力なのも確かである。
だからこそ、カティにとっての気がかりは攻撃対象に含まれてしまうもう一人の味方であった。
クロウシ。果たしてあいつは敵だけでなく自分にも向かってくるこの魔術にどう対処するのだろうか。
クロウシならばどうにか出来るだろうと、カティは楽観的に予測していた。
あいつはそれくらいの実力を持っている。そう判断したからこそスタルカにも構わず放てと指示をした。
なので、それを確認するためにもカティはこうして振り向き、目を凝らしているのだった。
天変地異の如く降り続ける雷の中で、カティはクロウシの姿を探す。
「うおおおぉぉい!? なんじゃこりゃああぁぁ!?」
すぐに見つかった。
クロウシは驚きのあまりなのだろう素っ頓狂な叫び声を上げながら、ひとまず降ってくる雷を避け続けていた。体を捻り、転がり回るようにして。
なんつー器用なやつ。雷を身体能力で避けるという普通ならありえない芸当に対して、カティは思わずそんな感想を抱く。
だが、〝遂に〟というか〝運悪く〟というか、どうあっても避けられないタイミングの雷撃がクロウシに迫ってきた。
果たしてどうするのか。カティも思わず緊迫と共に息を飲む。
「――っちっ、っく、しょおおぉぉ!! ナメんな!!」
だが、驚くべきことにクロウシはその雷撃に向かって跳び上がった。悪態と共に。
自ら攻撃に当たりにいく。すわやけっぱちの自殺行為かと思われた。
しかし、違う。クロウシはその雷撃を受けた。受けて、止めた。
自分の刀を雷撃へ向かって振り、その刀身で。
「っの、おおぉぉ……らぁぁ!!」
さらにその勢いのまま空中で回転し、刀を振り切る。刀身に受け止めた雷を纏わせたまま。
刀を振り切った方角は、カティがいる場所よりもう少し先。まだ無傷のゴブリン達がひしめいている場所だった。
そこへ向かって、刀身から振り払われるように雷撃が飛んでいった。
雷撃は恐るべき速度でまっすぐそこへと飛んでいくと着弾し、その辺にいたゴブリンをいくらか吹き飛ばしたようだった。
「……なんっ、つー……」
その一連の動きをしっかりと目撃していたカティは思わず言葉を失う。
それはあまりにも信じ難い、常識外れの技であった。
「あの野郎、魔術を跳ね返しやがった……」
魔術師が魔術を跳ね返す魔術を用いることもあるらしい。その存在と噂くらいはカティも知っていた。
しかし、魔術師でもない男が。魔術を使うでもなく、剣で魔術を受け止めて弾き返す。
そんな技は今まで見たことも聞いたこともない。ありえない技術だ。もはや曲芸に近いだろう。
雷の雨が止む。
雷が降り注いだ範囲の中で、無事に立っている姿は三つしかなかった。
すでに魔術に撃たれた傷も回復しているカティ。
跳び上がりから着地し、刀を支えに片膝をついた姿勢のクロウシ。
魔術を放った反動だろうか、少し荒い呼吸をしているスタルカ。
それ以外の、三人を包囲しつつあった恐ろしい数のゴブリンはその全てが地面に倒れ伏したまま動く気配もなかった。
それを確認したカティが、パーティーのリーダーとして即座に決断する。今、自分達が取らなければならない行動が何であるのかを。
そして、その指示を二人に向けて大声で叫んだ。
「全員、一旦集合!!」




