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大人同士の話し合いのようです その1

 とにもかくにも、そんな二人へカティはこれまでの経緯(いきさつ)を懇切丁寧に説明することとなった。


 俄には信じ難い、荒唐無稽にも程がある話。

 だが、以前のカティのことを知っているシュリヒテも逐一説明の補足と補強に加わってくれた。自分の社会的地位が人質に取られているとなると流石に必死である。


 そのおかげもあって、どうにか二人にもカティの身に起こったことを理解させて、信じさせることが出来た。……と、思う。


「おねえちゃんは……ほんとうはおじさんで……おじさんは……おねえちゃんで……」


 全てを聞き終えた後、スタルカは呆然とした様子でそんなことをブツブツと呟いていた。

 何故かはわからないが、この話が余程ショックだったらしい。

 だが――。


「――ううん……でも、過去がどうとか、本当は女の子じゃないとか、そんなの関係ないよね……。だって、私はきれいな女の子だからお姉ちゃんを好きになったんじゃなくて、私を助けてくれた人だから好きになったんだもん……。そこが変わったわけじゃないし……」


 俯きながらブツブツとそんなことを呟いた後で、ガバッと顔を上げた。


「それに、()()()()()()()()()()()()()()……! お姉ちゃん! たとえ昔の姿がどんな風でも、私にとってお姉ちゃんがお姉ちゃんであることは変わらないから! 安心してね!」


 スタルカはそのままずずいっとカティの方へにじり寄ると、その両手をぎゅっと握ってくる。

 そして、真っ直ぐカティを見つめながら力強くそう言ってきた。


「お、おう……よくわからんが、ありがとうなスタルカ……」


 その妙な迫力に気圧されたカティは、戸惑いつつもとりあえずそう返すしかない。スタルカが一体何を言ってるのかもよくわからないし。


「……確かにあんたのこと怪しすぎる、絶対何か裏があるとは思ってたけども……。まさか、そんな事情がなぁ……」


 まあ、そんな怪しい相手に雇われることに決めた自分もどうかと思うけど。

 一方、クロウシの方はまだ完全には信じきれていないような様子でぶつくさとそんなことを言っている。


 クロウシにとっては、やはりあまりにも非現実的な話なのだろう。

 とはいえ、何やら納得出来る心当たりがないわけでもないようで。


「けどまあ、それならあの異常な強さにも合点がいくっちゃいくかな。あんたの一番不気味だったとこ、その顔に似合わなさすぎるがさつで粗野な言動よりも、その年頃の女の子ではあり得ない腕っ節だったから」

「へえ……そこはちゃんと気づいてたわけか」

「そりゃ、あれだけ宙を舞うくらいの力でぶん殴られりゃね」


 意外そうな声を出すカティ。

 それにジトっとした目を向けてきながらクロウシはそう言った。


「はぁ……しかし、そうとなると少し困ったことがあるんだけど」

「なんだよ」

「いや……いい加減、あんたのことどう呼べばいいのかなって」


 ずっと『あんた』ってわけにもいかんでしょ、雇い主を。

 クロウシはそう言って、少し考え込むような顔になる。


「あんたが元は男であるとすると、『旦那』って呼ぶのが筋だとは思うんだけど」

「おお、いいな。それなら大歓迎だぜ」

「……いや、やっぱ駄目だ。違和感スゴすぎてこっちがおかしくなりそう」


 快く受け入れる姿勢のカティに対して、クロウシは真顔で首をぶんぶんと横に振る。


「うーん……そうなると、しっくりくるのはやっぱ『姐御』とか……」

「やめろ、マジで。お前にまで姉呼ばわりされる筋合いはねえ」

「えぇー……それじゃあ普通に『カティさん』……」

「それ、むず痒いしあんま好きじゃねえんだけどなぁ……」

「となると……それを縮めて『カッさん』……」

「……何で縮めたのかはわからねえが、そこら辺が落とし所だな。お前がそれでいいならこっちも構わねえよ」

「へい、了解ッス。それじゃあ、今後はそれでよろしくお願いしますよ、カッさん」


 クロウシの中ではそれでようやく落ち着いたらしい。カティの身の上話をどうにか飲み込むことも出来たのだろう。

 腕を組んで満足そうに頷いていた。勝手なものである。


 しかし、とにかくこれでシュリヒテからの切なる要望である説明責任は果たした。

 カティはそう判断すると、スタルカとクロウシの二人に声をかける。


「そんじゃ、それぞれ納得出来たところでしばらく席を外してくれるか? ちょっとばかし二人だけで真面目な話をしたいんでな」


 まあ、別にそこら辺にいてもいいけど、大して面白い話でもねえぞ。

 カティが二人にそう促すと、


「……まさか二人きりでやらしいことすんじゃねーでしょうね。子供追い出して……」

「お前らパーティーごと工房出禁にされたいのか? ん?」


 クロウシがそう混ぜっ返してきた。隣のスタルカも何やら訝しむようなジト目。

 そんな反応を受けたシュリヒテはにこやかな微笑みと共にそう告げていた。額に青筋を立てながら、であるが。


「出て行けクソガキども! 庭で遊んでろ! あんま錬金術師ナメてると標本にするぞ!」


 それから割と本気で怒鳴りつつ、二人をぽいっと工房の外へ放り出した。

 そんなシュリヒテの珍しすぎる姿を見て、カティは思わず腹を抱えて笑ってしまう。


「何を呑気に笑ってやがる……お前さんのせいで散々だぞこっちは」

「わりぃわりぃ。でも、お前でもそんな風に焦ることあるんだなって思ってさ。珍しいもんが見られたよ」

「……他人事みたいに言ってるがな、俺との関係を疑われてるのはお前さんも含めてだぞオイ。それとも、今やすっかり心まで〝その姿〟に引っ張られたか?」

「……後でこちらからもキツく叱っておきます。特にクロウシの方を」


 カティはぴたっと笑うのを止めると、頭を下げてそう言った。

 言われてみればそうである。流石に自分のことまでは笑っていられない。


「是非ともそうしといてくれ。……はぁ、それで?」


 疲れ切ったような溜息を吐きつつ、今度はシュリヒテが問うてくる。


「あのガキ共を見せに来ただけってわけじゃないんだろう。用件は何だ。手早く済ませてさっさと帰れ」

「悪かったよ、もう。そうヘソ曲げんなって。笑顔で話そうぜ」

「かわいこぶっても誤魔化されんぞ、俺は」


 カティは花の咲くような美少女の微笑みを向けて一旦機嫌を取ろうと試みる。が、失敗。

 仕方ない。小さく嘆息すると、本題を切り出す。


「次に何をするべきか、決めかねててな。何か面白え話は入ってねえか?」

「鬼猿山の山姥と思しき女が今度はバルトファングを仕留めてギルドに持ってきたらしく、そのせいでギルドが今てんやわんやの大騒ぎになってるって話以外でか?」

「……それ以外で頼む」


 やり返すようにそう言ってきたシュリヒテ。

 カティはそれを聞いて一瞬苦い顔をした後に、俯くようにして頭を下げた。


「まあ……一つだけ、ないこともないが……」


 それを見たシュリヒテは態度をやや軟化させてそう言ってきた。ただし、何やら含みのある言い方で。

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