間に挟まってくるようです その1
当然だが、その話はその日の内に、瞬く間に街中の冒険者の間に広がった。
おつかいに来た仲良し姉妹……のようにしか見えない年頃の少女達が、ギルドからとんでもない大金を受け取って去って行った。
その光景を直接見た者がそれを他の者達に話して聞かせ、そこからさらに別の者へ広まるという伝言ゲームを繰り返し、街は一晩中この噂で賑わうことになる。
大半の冒険者達は「あの少女達は一体何者なのか」という憶測で盛り上がるだけであった。
誰か他の人間の代理として遣わされたのだとか。
実はギルドを揺るがす不正の証拠を握っていてそれで強請ったのだとか。
案外あのナリで凄腕の冒険者なのだとか。
現実的な推測から荒唐無稽な妄想まで、様々な憶測が一晩の内に飛び交った(その中の荒唐無稽な妄想だとされるものこそが実は紛うことなき真実であるのだから皮肉なものだが)。
とはいえ、ほぼ全ての人間が少女達のことを見たまんまの子供であるとしか見なしていなかった。
そんな子供達がどうやら恐ろしいほどの大金を抱えて二人だけで行動しているらしい。
当然、噂はそんな情報を広めることにもなる。
先にも言ったが、冒険者には様々な人間がいる。
清廉潔白な人格者もいれば、一方でどうしようもなく卑劣なゴロツキ紛いも少なくない。
では、後者の類の冒険者達がその情報を耳にするか、あるいは直接あの場で噂の光景を目撃していたとしたらどうなるだろうか。
間違いなく、こう考える人間も出てくるはずである。
その少女達を襲って、ギルドから受け取り持ち歩いているとされる大金を奪ってやろう。
まして、そんな年端もゆかぬ少女二人から強奪するなど、赤子の手を捻るより容易いこと。
まさしく鴨が葱を背負って歩いているような、絶好の機会である――と。
☆★
しかし、その噂の対象である当の少女二人――カティとスタルカはといえば、現在焚き火の前に並んで座っていた。
どうやら今夜は街から結構離れた森の中で野営をするつもりであるらしい。
「……すまねえな、スタルカ」
火を見つめながら、唐突にカティの方がそう口を開いた。
「……何が? お姉ちゃん……」
同じく火を見つめながら、その温もりにぼんやりしていたらしいスタルカ。
視線を外してカティの方を見ると、不思議そうに問い返してくる。
「お前が仲間になってくれた日だってのに、こんなところで夜を明かすことになっちまって。しかも、一旦街に戻って、結構な金も手に入ってたってのにな。本当なら祝いとして、そのまま街でいい宿取っていい飯でも食わせてやりたかったんだが……」
溜息を吐きながらカティはそう言った。心底申し訳なさそうな口振りである。
「いっ、いいよ、別に! 私、野宿慣れてるから大丈夫! お姉ちゃんとこうして二人でいられるだけでも、十分嬉しいし……」
それを聞いたスタルカは、ちょっとだけ慌てたようにそう返してきた。
別に無理をしているわけではなく、本当にこれが普通だと思っていたらしい。
「……それに、何か理由があるんだよね? 街には留まれなかった……」
さらにスタルカはそう続けてくる。おずおずと確認するように。
「……まあな。ちょっと済ませておきたい用事があるから、街の宿には泊まれなかった。こういう静かで人気のない森の中が一番都合が良かったんだ。それでも……」
そこまで言ってから、カティもスタルカの方へと視線を向ける。
「仲間になってパーティーを組んだ以上、これからはお前をずっとオレの事情に付き合わせることになる……そのことを深く考えていなかったのも事実だ。あんまりお前に苦労をかけるべきじゃねえし、そうしたいわけでもねえんだ……ってのは言い訳になっちまうか。とにかく、悪いと思ってる、今日くらい贅沢させてやれなかったのはな」
「……いいの。本当に気にしないで、お姉ちゃん。私、その気持ちだけで十分嬉しいから……」
スタルカは健気にも微笑みながらそう言ってきた。
「スタルカ……」
そんなスタルカの健気さに、カティはすっかり胸打たれてしまう。
仲間になったばかりだというのに、早くも情が移りまくっていた。
根が素直かつ単純なせいか、すぐ人に絆されるところのあるカティ。
そんなわけで、カティの中でスタルカはすっかり本当の妹のようになりつつある。
夜が明けたら、明日こそ街で贅沢をさせてやろう。金はたっぷりあるし。
そう心に決めながら、カティもスタルカへ笑顔を返す。
そんな風に、しばらく二人でにこにこと見つめ合っていた。
――その時であった。
「――いいねえ。麗しき姉妹愛ってやつ? 俺も混ぜてくれよ」
二人の間からそんな声が聞こえてきた。
若い男の声。




