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仲間を集めるようです

 シュリヒテが話すには、ここ最近のテイサハの街では鬼猿山の噂とは別の、とある魔術師の存在が話題になっているらしい。主に冒険者達の間で。


「その魔術師は『災厄』と呼ばれている。本名じゃなく、勝手についた通り名らしいが。しかし、その通り名に相応しい、恐るべき威力と規模の攻撃魔術を自在に操るんだと」

「全部伝聞じゃねえか。直接見たことはねえのか?」

「残念ながらないね。情報だけは集めてても、俺だって山籠もり中のお前と大差ない閉じた生活を送ってるからな。まあ、それでも珍しく災厄という魔術師については俺自身も興味があるから接触を図ってもいいとは思っているんだが……難しいだろうな」


 何でだよ。表情だけで疑問を表すカティに、シュリヒテは話を続けていく。


「まだ誰も、()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()。災厄はここ最近、どこからかこの街へと流れてきた。冒険者として、らしい。その証拠に、災厄はこの周辺――ルアトの辺境地域の強大な魔物を次々と討伐している。いずれも高額の討伐賞金がかけられた、手強い手合いばかりだ。それによって一気にこの街で名を上げることになったわけだ。災厄という通り名もその過程でつけられたんだろう」

「だったら、尚更どうしてだよ。魔物の引き渡しや討伐賞金の受け取りで絶対に本人がギルドに現れるはずだろ? なのに、誰も姿を見たことがない?」

「引き渡しも賞金の受け取りも、災厄とパーティーを組んでいるという男の冒険者二人が全部行っているんだよ。本人はギルドに現れるどころか、この街のどこにいるのかも謎だ。誰もその姿を知らないんだから、探しようもない。本人が名乗り出ない限り、このままずっとその正体は不明のままだろうな」


 パーティーを組んでいる男達の方から辿ろうにもそちらも警戒心が強く、中々尻尾を掴ませないらしい。


「……確かにそりゃ面白い話だ。オレも興味を引かれる。勧誘できるなら是非とも声をかけてえところだよ。だが、本人に会うことが出来ねえんじゃなぁ……」

「災厄と組んでいる男達ごと囲い込むって手もあるが、どうやらそっちの方は冒険者としてはてんで大したことはないらしい。見るだけでわかるレベルだと。柄も悪いし、品も腕もない、ほとんどゴロツキと大差ないようだ。討伐賞金のおこぼれのおかげか、やたらと羽振りはいいみたいだが」

「それなのに、そいつらは〝恐るべき魔術師〟である災厄と唯一組むことを許されている……奇妙な話だな」


 カティは首を傾げつつも、シュリヒテに探るような視線を向ける。


「それで? 誰も姿を見たこともない、会うことも出来ない魔術師の話をしただけで終わりか?」

「いいや。実は災厄に関してもう一つ、新しい情報を仕入れていてな」


 シュリヒテはにやりと笑いつつ、それを話し始める。


「その災厄と組んでいる男達が最近酒場で気分良く豪遊していた時に、こんなことを豪語していたらしい。『俺達の次の標的はバルトファングだ』、と」

「――――っ」


 それを聞いたカティは思わず驚きで息を飲む。


 バルトファング。

 ルアトの辺境地域に広がる森林地帯に棲息する、巨大な狼である。

 しかし、ただの狼ではない。その森林地帯に棲息している数多の獣や魔物達の頂点に立つのがこのバルトファングと呼ばれる個体なのである。


 通常の狼の数十倍もあるその巨体はもはや獣ではなく怪物そのもの。

 強さの方も言うまでもなくその怪物としての巨躯に見合ったものである。

 この数十年、誰にも倒されることなく森の王として君臨し続けている。

 腕試しや賞金目的、名を上げるために挑みかかってきた冒険者達も全て完膚なきまでに返り討ちにして。


 故にその討伐賞金も鰻登り。強さも賞金もテイサハの街周辺、辺境地域の中では五本の指に入るだろう。

 オーガエイプのヌシに匹敵するか、あるいはその上を行くかもしれない、未だ人間が手出し出来ない怪物。

 それがバルトファングであった。


 そんな〝怪物狼〟を災厄は次の標的としているというのだから、確かに驚くのも無理はない。

 だが、カティが驚いている理由はそれだけではなかった。

 何故ならば――。


「馬鹿野郎! バルトファングはオレもこの後ぶっ倒しにいこうと思ってた相手だぞ!?」


 まさかの標的被りであった。


「……あのバルトファングを?」

「あのバルトファングをだよ!」

「一応聞きたいんだが、なんのために?」

「腕試しと、冒険者としての実績のためだろ!」


 何だか呆れているような様子で尋ねてくるシュリヒテに、カティはきっぱりそう答える。

 それを聞き終えたシュリヒテはもう何度目かわからない悩ましい顔をしていたが、やがて再び気を取り直したのかこう言ってくる。


「だったら、むしろ都合はいいんじゃないか? バルトファングを追っていれば、そこには高確率で災厄本人も現れるだろう。お目にかかれるチャンスってわけだ。バルトファングがまだ災厄に倒されていなければの話だが」

「――っ! そうか、なるほど!」


 カティは大いに納得した様子で手をポンと打ち合わせる。


「まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて馬鹿な手は、思いついても普通誰もやろうとはしないだろうがな。災厄が相手にする標的の危険度を考えると、あまりにもリスクが大きすぎる。災厄に会うためという目的にまったく釣り合わない」


 シュリヒテはそう言いつつも、「だが」と続けて、


「今のお前さんであればそれはリスクになり得ないんじゃないかと思っての提案だったんだが……まさかそう言うまでもなく、バルトファング自体をお前が討伐しにいくつもりだったとはな」


 呆れているのか感心しているのか。両方が混ざり合ったような様子でシュリヒテはそう言った。


「ああ、これはまさしく〝運命の巡り合わせ〟ってやつかもしれねえぜ。オレに〝災厄を自分の仲間に迎え入れろ〟という、な」


 言いながら、カティはふっふっふと、可愛らしくも不敵な笑みをこぼす。

 しかし、すぐにハッと何かに気づいた顔になり、


「って、そんなこと言ってる場合じゃねえな! 時間がねえんだった! すぐにでも追いかけねえと、災厄に先を越されちまうかもしれねえ!」


 パーティーメンバーの候補である前にまず競争相手だった。

 そう叫びつつ、カティは軽くその場で駆け足をする。


「悪い、シュリヒテ! そういうことだから、オレはもう出発するぞ! 色々置いていくから、後は全部任せた! 近々また来る!」


 それからシュリヒテに向かって一方的に、捲し立てるようにそう言うと、カティは一目散に庭から駆け出していった。

 猛然と、恐るべきスピードで。


「…………っ」


 何を言う暇もないその勢いにただただシュリヒテは呆然となるしかないようだった。

 そのままぽつんと一人庭に取り残される。


「うぉっ!?」


 と、そこへ再びとんでもない速度でカティが戻ってきた。

 庭への出入り口から、顔だけ覗かせて。

 驚きのあまり間抜けな声を出すシュリヒテに、カティはにっこりと笑いかける。愛くるしい少女の笑顔で。


「ああ、それとシュリヒテ。いい情報ありがとよ、助かったぜ。戻ってくるまでにまたいいの仕入れといてくれ、頼む」


 それだけ言い残すと、カティは今度こそ駆け出していった。


「……ったく……了解だよ、お転婆娘が」


 駆け出していく背を見送って溜息を吐くと、残されたシュリヒテはそう呟いていた。

 そこに精一杯の皮肉を込めるようにして。

ようやくあらすじ消化まで到達しました。

次回から新章です。

良ければ感想いただけると嬉しくて、励みになります。よろしくお願いします。

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[良い点] TSは良い。脳筋も良い。掛け合わせれば1粒万倍良い。 [一言] 昔の仲間に復讐…? で、できれば良いね?(メソラシドレミソ)
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