前置きをするようです
この話は、一組の冒険者パーティーが迷宮よりとある『秘宝』を持ち帰ったところから始まる。
あらゆる冒険者達の挑戦をことごとく失敗に終わらせてきた、難攻不落の古代迷宮。
その最深部に『秘宝』は眠っていた。
それを、そのパーティーが手に入れるまでの古代迷宮におけるスリリングな冒険の数々。
数多の冒険者達を返り討ちにしてきたという、最深部で待ち受ける迷宮の守護者との死闘。
……その辺りのことは、さして重要なものではないのでここでは省略しておこう。
とにかく、今まで誰にも攻略されることのなかった古代迷宮があったこと。
その古代迷宮を初めて踏破した、まさしく凄腕と呼ぶべき冒険者のパーティーが現れたこと。
そのパーティーが、迷宮最深部に眠っていた『秘宝』を持ち帰ってきたこと。
物語が始まる前に起こった、覚えておくべき大事な出来事はその三つである。
……ああ、それと、もう一つ事前に頭に入れておくべき重要な情報があった。
この物語の主人公について、だ。
命がけの冒険と戦いの果てに古代迷宮を攻略し、拠点の街へと見事に生きて戻ってきたパーティー。
その中に主人公はいる。
今現在、彼らは馴染みの店で盛大な打ち上げを行っている最中だ。自分達の成し遂げたその偉業を祝して。
そんな宴席でもみんなを仕切っている、そのパーティーのリーダーと思しき男。
整った男前の顔つきで、背も高く体格もいい剣士――アレク。
見るからに主人公然とした外見をしているが、実はこの話の主役は彼ではない。
パーティーメンバーは四人。
今は全員で円卓を囲み、勝利の美酒に酔いしれている。
その中の一人。つば広のとんがり帽子を被り、黒いローブに身を包むという如何にもな格好をした魔術師の女――カルア。
だが、主人公は彼女でもない。
では、眼鏡をかけてシンプルな祭司服を纏った聖職者の男――サンタ。
彼がそうなのだろうか?
理知的な雰囲気を漂わせる彼は、その印象通りに大人しく静かに杯を傾けている。
だが、違う。主人公は彼でもない。
そうすると、正解は自動的に残った一人ということになる。
短く刈り込んだ金髪の頭。
筋骨隆々、頑丈さと腕力こそが取り柄だと声高に主張するようなその鍛え上げられた肉体。上背もまた人並み外れている。
そんな巨躯の持ち主としてこれ以上なく相応しいだろう厳つい顔つき。
外見から受ける印象をまったく裏切らない、がさつで豪放な振る舞い。
パーティーの誰よりも大声を出して笑いながら大酒を飲み、卓狭しと並べられた料理に勢いよくがっついている。
そんな、まさしく戦士という職に相応しい、脳味噌まで筋肉で出来ていそうな男――サーク。
何を隠そう、彼こそがこの物語の主人公である。
事の始まりとして、最後に覚えておくべきはそれだろう。
さて、これである程度の前置きは済んだ。
それでは、いよいよここから物語の本編を進めていくとしよう。
そんな主人公――脳筋戦士の辿る、数奇にも程がある運命についての物語を。




