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結果が報告されるようです その2

 そう言うや、机にあった食事用のナイフで指先をスパッと切った。

 当然に皮膚は裂け、血が滲み出てくる。だが、数秒で元通りの状態に回復。


 この異様で奇妙な体質が一体何なのか――どうして自分の体が今こんなことになっているのか。

 案外そっちの方を知りたいという気持ちの方がサークの中では大きいかもしれなかった。これまでのことよりも。

 故に、核心に切り込むような気分でシュリヒテに問いかけているのだが。


「それだよな。俺も実は自分の解析結果と推測の中で一番報告したいところはそこだった。そして、お前に与えられた祝福――お前の今の体の状態で一番面白い部分ってのもそこだ」


 対してシュリヒテは何とも明るく、若干興奮しているような様子で応じてきた。

 そのままウキウキと説明を開始する。


「結論から言うと、お前の今のその体質――傷が異常な速度で回復することと、世界で一番美しい姿にする祝福とは大いに関係がある」

「って、言われてもな……」

「いまいちピンと来ていないようだな。まあ、無理もないか。そうなるだろうと思って、わかりやすいたとえ話を考えておいた」


 もやっとした表情のサークに構わず、シュリヒテは滔々(とうとう)と話を進めていく。


「たとえば、世界で最も美しい壷があるとする。誰もが認める、至高の美術品だ。王侯貴族ですら喉から手が出そうなくらいに欲しがる逸品だ」

「ほう、そりゃすげえ。それで?」

「だが、この壷に不慮の事故で大きな傷がついたとする。あるいは最悪、地面に落として割れてしまったとする。そんなことになったこの壷は、果たして世界で最も美しいと言えるか? 価値は同等か?」

「まあ……言えねえんじゃねえか、それは。傷一つない状態でこそ美しいと評価されてるんだったらよ」

「当然そうだわな。つまり、今のお前さんの身体もその壷と同じことだよ」


 そう言って、シュリヒテはビシッとサークへ指を突きつけてくる。


「〝世界で最も美しい〟とされる少女の顔や身体に大きな傷がついていたら? あるいは手足が欠けていたら? 臓腑が外に飛び出て、血に塗れていたら? その姿は本当に世界で最も美しいか?」

「それが美しく見える場合だってあるだろ……」

「そうだな、それは否定しない。人間の嗜好なんざ千差万別だからな。しかし、さっきも言ったが、お前に祝福を与えた存在は()()()()姿()()()()()()()と考えている。そこから何一つ欠けることもなく、何一つ足すこともない、()()()()()()()()()()()()()()()()()と。そこから何かが一つでも変化してしまったら、それは世界で最も美しい姿とは言えないのだと……な」

「…………」

「しかし、故意でなくとも人間生きてりゃ自然に怪我の一つや二つはするもんだ。傷もいくつか残ることもあるだろう。手足を失う事故だって起こりうる。お前がそうなっちまうと、世界で最も美しい姿ではなくなってしまう。()()()()()()()()()()()()()()。だから、これを与えた存在は〝そうなることを防ぐための機能〟も、この祝福の中に織り込んでいたのさ」


 シュリヒテはそこで一拍置いた後に、きっぱりと告げてくる。


「――その機能こそが、お前の異常な回復力だよ。お前の体は今、その傷一つなく完璧な、世界で最も美しい姿を維持し続けるようになっている。そのために、美しさを損なわせるような(きず)――負傷の類はたちどころに回復し、元の状態に戻るようになっているんだろう。……というのが、その奇妙な体質についての俺の見解だ」


 シュリヒテは「つまり」と続け、


「世界で最も美しい壷のたとえに戻れば、壷に傷がついても、よしんば割れたとしても、自動で元の状態に修復されるようにすればいい。そうすれば、その壷は何があっても世界で最も美しい姿のままだからな。どうだ、理解出来たか?」


 確認してくるシュリヒテに対して、サークはしばし黙って考え込む。

 その説明を必死で噛み砕いて飲み込み、理解せんと試みているように。

 しばらくしてから、おもむろに口を開いた。


「つまり、今の俺はその、世界で一番美しい壷……っつーか、〝美術品〟みてえなもんってことか」

「たとえ話だがな。そういう理解で概ね間違いはない」

「少しでも傷がつけば価値が落ちる……だから、全部の傷が即座に修復される……かぁ」


 まだ少しだけ疑っているような口振りでそう呟きつつ、サークは己の体を見回す。

 崖から落ちてボロボロになったのに死ななかったのはそのおかげか。

 改めて謎が解けたことにスッキリしつつも、思う。


「もしかして、今の俺は〝不死身〟……なのか?」

「さあなぁ……。だが、俺はそこまで行き過ぎたものではないと推測してる。たとえば〝灰になっても甦る〟なんてレベルじゃあ流石にないだろう。けどまあ、手足の一、二本切り落とされてもくっついたりはするんじゃないか。下手すりゃ首が取れてもくっつければ元通りになるかもな」

「ほとんど不死身のバケモノじゃねえか」

「いいや、確かに言えることはお前にも『死』というものはある。それが限りなく遠いものになっているだけで」


 誰だろうが、お前だろうが確かに死ぬ。シュリヒテはそう言い切った。


「死ななかったら、そいつはほとんど神ってやつと()()ってことになるからな。祝福は上位の者から下々へ施されるものだと相場が決まってる。そうである以上、()()()()()()()()()()()()()()が祝福として与えられることはないだろう」


 無論それもシュリヒテの勝手な推論であり、何らかの個人的な信条も含んでいそうな言葉であった。


 しかし、サークだってどちらかと言えばそれを積極的に信じたい心境である。

 こんな姿になった上に死ぬことも出来ないとあってはあまりにも絶望的に過ぎる。

 この悪い夢のような状況は永遠に続くものではない。いつか終わりが来るのだと思いたい。

 たとえそれが〝死〟という形だとしても。


 とはいえ、シュリヒテの言うとおりそれが限りなく遠くにあるのも確かなようで。


「……待てよ……。オレはもしかして、老いることもないのか……?」


 そうこう考え込んでいる途中で、サークはふっとその可能性に気づいてしまった。

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