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第12話、家出と夢と

本当に徐々にですけど、伸びていけている事に感謝します…


「お嬢様、準備出来ましたか?」

「うん!持ち物もちゃんと確認したよ」

 鞄には財布と少しの食料、水が入っている。

 私が今回行く街は、屋敷の後ろ側にある街で、名前はエトリア…ゲームでは最初の街だ。


 屋敷から歩いて向かうには、数時間ほどかかる。

 だけど私の場合、捜索や目撃情報を逃れるため、大回りで向かう。その為、確実に一日は掛かってしまうのだ。


「じゃあ…行きますよ」

「うん…」

 扉の前で決意を固める。この家出に成功して、私は自由を手に入れるんだ。

「スキル、使いますね」


 スキルは、簡単に言うと技だ。

 恐らく今使おうとしている【隠密(おんみつ)】は、スキルレベルを上げると、周囲の物や人物の気配を消す事ができる。

 これで上手いことバレずに出ることが出来れば、家出は成功だ。


「【隠密】」

 淡い光が私とアクティを包み込む。

光が晴れると、アクティが半透明になっていた。

「お嬢様は一緒に隠れているので、私の事が半透明に見えていると思います…どうです?」

「凄く半透明、アクティから見て私は半透明に見えてるの?」

「はい、他の人から見ると私もお嬢様も見えません」


 ゲームでは何度も見たり使ったりした事があるけど、今世でスキルを受けるのは初めてだ。なんともすごい感覚…

「さて、行きますよ。声も聞こえなくはなってますけど、一応喋らないで下さいね」

 喋らないでと言われたから無言で頷く。えっ何故か笑われてしまった…なんで?


 なんで笑われたんだろ…とか思っているうちに、アクティが扉を開ける。勿論周りには誰もいない。

 アクティから離れないよう足早に動く。

 掃除の時に窓を開けといてくれたらしい。

 私の部屋はお父様とかがいる場所と少し離れている。その為か、従業員がここを訪れる事とは、掃除や私を呼ぶ時を除いて、そこまで多くはない。


「お嬢様、ここです」

アクティが指を指す先には、開いた窓がある。それ以外は何も無い。

「アクティ…ここ結構高いよ?」

「大丈夫です。【空歩(くうほ)】を使います。お嬢様、失礼します」

 そう断ったあと、私を抱き抱える。

 いくら私が小さ…神に選ばれしコンパクトフォルムだからって、そんな簡単に抱えられると…虚しいからやめてほしい。


 まぁそんな本当に物凄くどうでもいいと思いたい前世から続く私の身長問題は置いといて…今は【空歩】の事だ。

 空歩は名の通り空を歩くスキル。

足元に透明な板のようなものを出現させ、その上を歩くというスキルだ。


「えと…【空歩】を使って下に降りるの?」

「いえ、降りませんよ」

「えっじゃあもしかして…」

「このまま正面突っ切って森に入りましょう」

「えええええ…」


 正気だろうか…【空歩】は便利である分、スキル発動のために使うMPの消費も結構激しい。

 確か消費を抑えるには【跳躍】とかを使って飛距離を伸ばさないと…いや、仮にアクティが【跳躍】を持っていて、今からそれをやろうとしていてもやらないで欲しい。お願いだから。


「あっアクティ…もしかしてなんだけどさ」

「はい?」

「跳躍とかしようと…」

「してますね…行きますよ」

「ちょっとまっ」

 あーはい死んだ。もうダメだ。私の冒険はここで幕を閉じるんだ。本当に無理。

 だから戻ろう…?戻ろうよ…


「さて…我慢して下さいね」

 何で無理なんだって…?だってさ…

「高い所とか意味わかんなうあああああああああああ!!」


 飛んで下がって…飛んで下がって…

私の視界はジェットコースターとかよりも激しく動く。

 高いとかじゃなくて…いや高いんだけど単純に酔ってきた…怖い気持ち悪い怖い気持ち悪い…怖い!!

 何で人間がこんな動きしてんの?!ドラゴンでもこんな動き方しないよ!

 ゲームだったら視点切り替えできるけどここは現実!無理!無理!!


――森に着くまで、私とアクティにだけ、悲鳴が響き渡りました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの…お嬢様、生きてますか?」

「いき…生きてる…てるけど、限りなく…死んでる…う…」

 無事…無事じゃないけど、何とか森に着いた…気持ち悪い…


「すいません…高い所が苦手なのは知ってたんですけど、酔いやすいとは」

「いや…酔いやすいとかじゃなくて…あれは大体の人が酔うと思うよ…うぅ…」

 喉をせり上がってくる何かを必死に堪えながら、そう答える。


「私は平気なんですけど…」

「強い…まぁでも今回はアクティに逃げ方を任せた私も悪かった…」

 本来地面を歩いて出口に向かう予定だったのだが、計画を伝えた時、アクティが

『もっと簡単で確実な方法がありますよ』

と言ったから…任せてしまったのだ。


「まぁ良いや、着いたし」

「はい…着いちゃいましたね」

 あぁ…そっか、アクティとはこれでお別れなんだ。

「あは…ちょっと、寂しいね」

「ですね…でも、私はお嬢様を…いえ、一般人のレイさんを応援してるので、これはこれで嬉しいですよ?」


 私は家出をして、もうシルバートの人間ではなくなった。これからは普通のレイなんだ。

「ん、ありがとね、アクティ」

「はい…もうそろそろ私は戻らないとです…私がいなくても元気に生きて下さいね、レイさん」

「私ももう14だよ?生きるのに必須な技能は備わってるよ」


 前世では一人暮らしの社会人だったんだから、料理も洗濯も簡単なのはできる。

 あとはこっちで磨いたこともある。基本的なことはなんでも出来るんだ。

「じゃあ安心ですね…行ってらっしゃいませ、レイさん」

「うん…行ってきます!」


 何度も後ろを振り返りながら前へと進む。アクティが見えなくなるまで走って、走り続ける。

 やがて、見えなくなった時に、やっと走るのをやめ、ゆっくりと上を見上げた。


「…綺麗だなぁ」

 夜空には満天の星空。

 周りを見れば、11月の森が赤く染っている。

 少し開けたこの場所を、この景色を、きっと私は忘れない。

 一世一代の家出、こんな思い出、忘れるはずがない。

「頑張ろう…テイマーになって、私は…」


 今世の私の夢は…

「私は、この前世でどハマりしたゲームの世界で、トップを取ってやる!」

 夢を掲げ、宣言する。

きっと私の瞳は、期待と、決意に揺れているだろう。

お読み頂きありがとうございました。

感想等ありましたら励みになるので是非。


タイトル回収みたいなの、1度やってみたかったんだ。


今回の話というか、家出は割とシリアスめにするつもりだったんだけど…レイが怖がってる話になってしまった。

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