第11話、誕生日会、お義母様、そして…
過去最大で遅くなりました!
本当にすいません…前回気を付けますって言ってたのに…
アクティと私の今後を話した次の日。今日は私の誕生日会当日だ。
「お嬢様、ドレスお持ちしました」
「アクティ…おはよ、ありがとね」
寝起きで眠い目をこすりながら、感謝を述べる。
「これも従者の務めですよ…さ、着替えましょう」
アクティに着替えを手伝って貰いながら、今日の事を考える。
時間になったら会場に行って、挨拶して、会食をして、また挨拶をして、そしたら部屋に戻って…なんか色々と準備を整えたら夜、家出を決行する。
昨日、アクティに家出宣言をした後、私の考えた作戦を伝えた。一部直されたところもあるけど…作戦は完璧だ。
アクティの職業は、《暗殺者》である。
別に、職業が暗殺者だからと言って、実際に暗殺をする訳じゃ無い。自分の職業通りの仕事をしなければ行けないという法律はない。
ただ、職業で偏見があるのは確かだ。
アクティが私の専属をやっているのも、私が嫌われていて、ただ専属は必要だったから、立場の低い彼女を専属の立場に置いたのではないだろうか。
話を戻そう。《暗殺者》は、かなり隠密に優れている。スキル【隠密】のLvをあげることにより、自分と、周りの人物の気配を消すことが出来る。
アクティにはそのスキルを使い、手伝って貰えるようお願いした。
計画通りに行けば、会が終わり、部屋に戻った後、私は着替えて、そして、髪を切る。
今は貴族令嬢らしく長髪だが、アバターの私は肩より少し下位の長さだった。
もしかしたら運命で決まっていたのだろうか。そんな意味の無い事を考えながら着替える。
「お嬢様、もし誰に感づかれたりして何か聞かれたとしても、絶ッ対に動揺しないで下さいね」
「…うん、善処します」
「これを機に嘘を鍛えれば良いんじゃないですか?冒険者になった後に割と必要な技術だと思いますよ」
「だからどう鍛えるの?って話だよ」
「前に言ったように嘘つきまくるとか…お嬢様、終わりましたよー」
そう言われ、姿見の前で自分の姿を確認する。
私の瞳と同じ、水色を基調としたドレス。
金色の長い髪は、ハーフアップにされている。
「完璧…ありがと、アクティ」
お礼を言ったとほぼ同時に、ノック音が鳴り響く。
「どうぞ、お入りください」
「失礼致します。お嬢様、そろそろお時間です」
「了解しました、直ぐに向かいます。ありがとうございます」
「いえ、失礼致しました」
時間を告げに来たメイドは、用件を伝えるとすぐに出ていってしまった。
「アクティ、もう準備する事ないよね?」
「はい、もう無いはずです…出ますか?」
「うん、早い方が良いからね…頑張るよ」
アクティに見送られつつ部屋を出る。
足取りは重く、ゆっくりと廊下を歩み、目的地へ向かう。
屋敷のホールが、今日の会場だ。
「…よし」
会のことはもちろん、家出のこと、出たあとのこと、その他諸々の決意を固め、ホールへ向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ホールに着き、お父様の後ろ側で待機する。
今の時間はお父様が集まった方々に挨拶をしている時間だ。
「――では、これにて私からの挨拶を終えさせて頂く。次に今回の主役、我が娘である、レイ・シルバートだ」
「ご紹介に与りました、レイ・シルバートで御座います」
お父様が下がったと同時に、私が前に出る。
「皆様のお陰で私は、無事に14歳を迎える事が出来ました。今年は、私にとって今までに無いほど重要な年です。私は先人を見習い、《聖騎士》になれるよう、努力して参ります。まだまだ未熟者ですが、皆様のご迷惑にならぬよう、慎重に修行をしていきますので、これからもどうぞよろしくお願い致します」
長ったらしい挨拶を終え、後ろに下がる。
するとお父様が前に出てこう言う。
「これより会食を開始する。皆、自由に楽しむが良い」
お父様も後ろに下がると、音楽が鳴り始める。
すると同時に、会場がざわつく。会場にいる人たちが動き始めたのだ。
それを確認し、皆がいる所へと行く、すると、人が1列に並び始めた。
貴族特有、挨拶の始まりだ。
「シルバート公爵令嬢様、私は、ラングリー・プリングスでございます。覚えておられでしょうか…」
「勿論です、プリングス郷。去年もご挨拶して頂きましたね」
「そうです、この度は――」
と言ったように、堅苦しい権力目当ての挨拶を、この会場の殆どの人とやらねばならないのだ…正直、かなり面倒だ。
それに、この場にいるのは男性の方が多いのだが、前世の影響でかなり苦手になった。
ストーカー、超特殊性癖、クズ、変態etc…これら全て前世で私の周りにいた男達である。
まともだったのはお父さんとあと1人くらいだ。
子供の時から変な人が多く、そのせいで誰とも付き合うことはなく、生涯を終えた…本当に、呪われているのではないだろうか。
男子が嫌で女子校に行ったのに、教師に狙われ変な噂が立って孤立したのはいい思い出だ…その分ネットは良かったなぁ…
男が寄ってくればブロックでどうにかなった…いや、ならない奴もいたけど。
それに、友人の女の子達には数人、男子と会わないようにしてるれる子もいたなぁ…
可愛いラブリンちゃん、かっこいいアルーアさん、癒し枠のファンちゃん…他にも数人いた、楽しかったなぁ…
そんな感じで前世を思い返していると、流れている音楽がフィナーレに入り始めた。
気付けば私の前にはあと一人しかおらず、会食が終わるのかと、少しだけ安心した。
最後の一人との挨拶を終え、私が元居た場所に戻るとほぼ同時に、音楽が鳴り止む。
すると、お父様が最初と同じように前に出る。
「皆、会食は楽しめただろうか、最後に、我が娘からの挨拶だ」
今度はお父様は下がらず、私の方をむくだけだった。
お父様の目線を受け、私は前に出る。皆を一望した後、声を発する。
「皆様、本日は本当にありがとう御座いました。私、レイ・シルバートは、これからも精進して参ります、いつか立派な存在になってみせます。今後ともよろしくお願い致します」
お父様と同時に1歩下がり、礼をする。
会場が一気に拍手の音で溢れかえる。
その音を耳に残しながら、私達は退場した。
退場して少しすると、ホールから拍手の音が消える。
きっと今は、他の貴族達が退場しているのだろう。
耳だけで様子を伺いながら廊下を歩き、部屋をめざしていると、不意にお父様が口を開く。
「…ソイル?」
「えっ?」
お父様の口にしたその名に驚き、つい顔を上げる。
そこには一人の女性が立っていた。
ソイルニア・シルバート。お父様の妻であり、お異母兄様の母親、そして私の、義母である。
「…御機嫌よう、クムリア様、あぁ…あとあの女の残りカスね?」
「戻って来ていたのだな」
「はい、予定より少し早く戻りましたの。一刻も早くクムリア様にお会いしたくて…」
「そうか…レイ、お前は部屋に戻れ、俺はソイルと話をする」
「…はい、分かりました」
お父様に礼をし、目的地方面――お義母様の方へ向かう。
横切る前にちゃんと礼をして、横を通る…その時、お義母様が私に囁いた。
「家を出ても、誰も悲しまないわよ」
最近で1番鳥肌が立った。
なんで?なんでバレたんだろう…どうしよう。
つい足を止めてしまう。
「あら?どうしたの?」
お義母様が嫌な笑みを浮かべて私の前に立つ。
どうしよう、なんて返そう…
呼吸は荒く、必死に動揺した頭で返答を考える。ふと、ひとつの、アクティが発した言葉が浮かんだ。
『お嬢様、もし誰に感づかれたりして何か聞かれたとしても、絶ッ対に動揺しないで下さいね』
そうだ、動揺してはならない、落ち着け、落ち着くんだ。
「…お義母様、何を仰っているんですか?家を出るわけないじゃないですか」
「あら…鎌をかけてみたけど、外れちゃったわね」
残念そうにしながらお父様の所へ、お義母様は向かう。
何とか乗り切れたようだ。
2人で私が来た道を戻るお父様とお義母様、そんな2人を見送り、部屋へと向かう。
アクティが動揺するなと言ってくれなかったら、私がもしその言葉を思い出せなかったら、一体どうなっていたのだろうか。
「まぁ…終わり良ければ全て良し、かな?」
小声でそんな事を呟きつつ、自室へと戻る。
「ただいま、アクティ」
「あっおかえりなさい、お嬢様!」
ハサミを持ったアクティが部屋で待っていた。
そうだ、これから先は、お父様やお義母様、お異母兄様に縛られなくていい、私の新たな人生が幕を開けるんだ。
今は家出のことだけを考えよう!
「お嬢様、切りますよ、切っちゃいますよ!」
「うん…この髪型から卒業かぁ…」
「綺麗な髪なのに…切っちゃうの残念です…」
「これも家出の為だよ」
街に出た後、バレない様にする為、髪を切る。
「…出来ましたよ、お嬢様」
「ん、ありがと!」
鏡で自分の姿を確認する。
ミディアムくらいの髪型になった私は、完全にゲームのアバターだ。
「あっお嬢様」
「なに?」
アクティが部屋の角からカバンと服を持ってくる。
「これ、お嬢様の誕生日会をやっている間に用意したので、着替えて下さい」
「こっ…これって…」
ザッストでは、入力した設定、過ごし方、その他諸々の情報を元に、初期装備が渡される。
完璧に同じ行動でもしない限り、被ることはそんなにない。
色々な種類から選ぶのだが、今アクティから渡された服は、私の選んだ服そっくりそのままだった。
「私の手作りです!良い素材で作ったので、暫くは大丈夫だと思いますよ!」
「…ありがとう、絶対大切にするよ!傷一つ付けない!」
「装備だから付けてもいいんですよ…?」
「じゃあ付けても直すよ!」
「まぁ裁縫出来ますし直せますか…あっじゃあ素材を買ったお店の名前のメモ渡しておきますね」
そう言ってアクティが渡してきた紙には、『素材屋 フィット』と書いてあった。
フィットという名は、貴族界ではそれなりに有名だ。
とても良い生地や宝石、その他諸々を扱っているらしい。
「あっでもお嬢様、ここらで1番近いフィットの店舗には、凄く腕のいい生産職の方がいるんです。頼めば直していただけるんですよ!」
「えっすごい…じゃあ安心だね」
「はい!…あっお嬢様、そろそろ時間です」
時間、家出決行の時だ。
「…気を引き締めていこう」
「はい…ってお嬢様…着替えてないじゃないですか」
「あっ話に夢中で忘れてたぁぁ!」
いそいそと着替える私を見て、アクティが笑う。
すごく大切な時なのに、この緩い空気で良いのだろうか…
お読み頂きありがとうございました。
感想等ありましたら励みになるので是非。
次回ついに家出…
レイは無事に出ることが出来るのか…
因みに言うと何も思いついていない。遅れるかも…
今回以上遅れないようにします…