口づけ
あなたと初めて口づけを交わしたのは、五年前の、春。
あなたが私の目を見つめて。
私は目を閉じた。
あなたの唇が触れて。
私は涙を流した。
あなたと私の気持ちが同じものだと知って。
あなたと私は何度も口づけを交わし。
私の熱はあなたに。
あなたの熱は私に。
互いの熱は、いつも交し合うものだった。
あなたの熱を唇にのせたのは、一週間前。
あなたの唇はいつもと変わらない熱を持っていた。
あなたの唇が、遠い。
あなたの唇が、こんなに近くにあるというのに。
あなたは私に、もう、熱を分けてはくれない。
あなたの唇と、別れなければならない時が来る。
あなたであった、あなたの体は、熱を無くしてしまった。
私は今、迷っているの。
あなたの熱を覚えている私の唇。
あなたは今、花に囲まれてそこにいる。
あなたの体と、別れる時が近い。
あなたは今、私から熱を奪うだけの存在。
あなたの熱を、冷たい唇は伝えてくれない。
あなたに口づけを、落とすべき?
あなたの熱を覚えている、この唇を大切にしたいと願う私。
私の熱を、最後に伝えておきたいと願う気持ち。
どちらを選んでも、私はきっと。
唇を噛みしめて、私は愛する人を、見送った。