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罪避り人  作者: 裏々正
9/14

日記・今度こそ言おう



3月□日


 今日は、新しいかんきょうで、また一からスタートする日。


 この住宅街に、ひっこしてきた。


 といっても、前に住んでいたいなかの方からあんまりはなれていないんだけど。


 都会の学校に通えるから、こっちにひっこした。


 でも、しょうじき、不安。


 また、前の学校とおなじなんじゃないかって。


 こうやって、転校して、新しい学校にいったとしても、何も変わらないんじゃないかって。


 おとうさんとおかあさんも、僕のためと言ってはいるけど、本当はそんなことない。


 もし、本当に僕のためというなら、もっと別の町にひっこしたはずだ。


 こんなちゅうとはんぱな場所、いなかのときの人と会ってもおかしくない。


 こんな住宅街にひっこすなんて、きっと別のもくてきがあったんだ。


 仕事をする所から近いとか、きっとそんなりゆうなんだ。


 僕のことなんて、ついでなんだ。


 だから、僕のことなんて、どうでも、いいんだ。





4月○日


 今日は、新しい学校に行ってきた。


 ちょうど、学校も新しい学年でスタートする時だった。


 だから、僕が転校生だということはバレていたけど、僕一人が自己紹介することはなくなった。


 でも、皆は僕のことを変な目で見てくる。


 やっぱり、ここでもおなじなのかな。


 そのあと、たんにんの先生に呼び出された。


 何か、「登校はん」というのがあるらしくて、そのはんで学校に登校するんだって。


 最初はよく分からなくて、不安だった。


 でも、その登校はんの人を、紹介された時。


 どうしてだろう。


 僕はその人の顔を、じっと見ていた。


 「山中志保です。まあよろしく」って、僕に言った。


 その女の子。


 黒くて、短くて、後ろのほうがちょっとねぐせのように外にはねていたかみで。


 白いTシャツに黒の長ズボンという、ふつうなかっこうだったけど。


 その目は、なんていうのか、ひかりがないような目だった。


 悲しそう、だった。


 だからなのかな、僕は、彼女のことが知りたくなった。


 こういうのも、ひとめぼれっていうのかな?





6月△日


 毎日のように、登校はんでいっしょに学校に行くことになった。


 それをきっかけに、僕と志保ちゃんは、いっしょに遊んだりした。


 彼女はとても頭が良くて、うんどうしんけいも、僕なんかでは足元におよばないほどのもちぬしで。


 僕とは性格が正反対で、言いたいことを何でも言ってしまう彼女をすごいと思った。


 僕なんかにはけっしてマネできない。


 僕の、あこがれだった。


 やっぱり、こっちの学校でも、いじめられるようになってしまったけれど。


 それでも、志保ちゃんと会いたいから、きちんと学校に行っていた。


 彼女はクラスの人たちとちがって、僕をいじめたりはしない。


 そのことで、新しい学校のことを教えてくれたり、いじめの問題をいっしょに考えてくれた。


 そんな志保ちゃんが、僕は、大好きだった。





12月×日


 相変わらず、いじめはやめてくれない。


 志保ちゃんは、クラスの人たちだけじゃなくて、僕が悪いことばかり考えて、しょうきょくてきになるのも悪いって言った。


 「言いたいことがあるならはっきり言え」って。


 志保ちゃんが言うことだ。


 きっとそれは正しいんだろうけど、こればっかりは、うなずけなかった。


 それで、今いじょうにいじめられたら、どうすればいいの?


 げんじつは、ゲームのようにセーブポイントやリセットボタンなんかないんだ。


 もし、それで今より最悪になったら、僕はどうすればいいかわからない。


 ずっと、そう思ってた。


 でも、その後のことで、やっぱりそうしようと思った。


 変わりたいって思った。


 それは、学校に着いて、志保ちゃんと別れた後のことだ。


 前に、彼女に借りていた消しゴムを返すのをわすれていたことに気づいた。


 それで、こわがりながら上級生の、彼女のクラスに行った時だった。


 とつぜん大きい声が聞こえた。


 一つは男の人の声だったけど、言い合っているもう一つの声は、僕もよく聞いたことがある声だった。


 おどろいてそのクラスを見てみた。


 男子生徒と、志保ちゃんが、何か大声で言い合っていた。


 先生がやってきたことで、そのケンカは止められた。


 彼女の顔は、僕が今まで一度も見たことがないような顔だった。


 志保ちゃんも、僕とおなじだった。


 おなじように、いじめられていた。


 初めて会ったとき、どこかその目が悲しそうだったのは、そういうことだったんだ。


 けど、それとのかかわり方は、僕とは反対だった。


 僕に言うように、言いたいことをはっきり言っていた。


 でも、そのせいで、彼女はあんな顔をしていた。


 そう思うと、僕が思っていることもまちがってなかったんだろうけど、このままじゃいけないって思った。


 志保ちゃんは、自分もおなじようにいじめられていたのに、それでも僕のそうだんにのってくれた。


 だから、今度は僕が助けるばんだ。


 僕の前でそんな顔は見せないけど、彼女はずっとそのことで、なやんでいたんだ。


 僕がそうだったから、分かる。


 だから今度は、僕が守るんだ。


 守。


 大嫌いだった、僕の名前。


 志保ちゃんに、一度も呼ばれなかった、名前。


 強くなりたい。





12月Σ日


 みぎてが●かなくて、左手で●かないといけない。


 でも、●こうと●う。


 志●ちゃんに、なぐられた。けられた。


 最●には、お父さんにつくってもらったいすで、●をころそうとした。


 さいあくなことに、この日●もみられた。


 中はみられなかったけど、これを●いているということをしられた。


 こんなものをかいているから、●はおんなのこみたいっていわれるのかな。


 けど、そのことはもういい。


 今は、こんなことよりも、●保ちゃんのことがじゅうようだ。


 ●女は●に「なぐれ」と言って、●後には「ころせ」って言った。


 でも、ぼくはしたがわなかった。


 だれかをなぐりたくなんかない。


 ぼうりょくもきらいだ。


 それに、大好きな人を、なぐれるもんか。


 ぜったいにそれだけはしたがわない。


 すると、またぼくにぼうりょくをふるった。

 

 ニュースで、●女のおかあさんがしんだって●いてたから、しかたない。


 だから、ぼくはこんなかたちでも力になれるなら、それでもいいって●った。


 よくは知らないけど、ストレスはっさんというのになればって。


 でも、しほちゃんはイスをぼくにぶつけなかった。


 そのときのかのじょは、たすけてほしいってないてる、まいごのようだった。


 しほちゃんに会う●の、ぼくのように。


 だから、ぼくはかのじょに●づいて、そういえば、そのあとどうしようとしてたのか、分からない。


 でも、とにかく力になりたくて、かけよろうとしたけど、いたくてたおれてしまった。


 そしたら、かのじょがささえてくれた。


 力になりたいのに、本●、なさけない。


 それでも、こんなぼくでも、いや、ぼくだから、しほちゃんの力になりたい。


 かのじょを、守りたいんだ。


 また、しほちゃんに会いたい。


 でも、かのじょはあれからがっこうにもこない。


 いえに行ったら、かのじょのお父さんがでてきて「今はだれとも会いたくないそうだ」といって入れてくれない。


 しほちゃん、会いたいよ。


 ぼくのこんなケガのことなんてきにしないでいいから。


 また、いっしょにがっこう行きたいよ。


 またあした行ってみよう。


 それで、今どはちゃんというんだ。しほちゃんの力になるって。


 しほちゃんを守るって。


 好きだって。





1月Ω日


 あれ? おかしいな。


 何で、ノートが、こんなに、ぬれてるんだろう。


 雨でも、降ってるのかな? 


 でも、ここは僕の部屋なのに、おかしいな。


 これじゃ、もう、かけないね。


 そうだよね。


 初恋は、みのらないって、言うもんね。





 ○年12月×日


 守るから。絶対に。




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