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20.新しい小隊

 ジークリンデのデビューも終えて、ハロルド一行はドリッテシュタットに戻り、レオンとニナはハロルドが予約した宿屋に宿泊した。今回は部屋が一つしか取れなかったため、レオンとニナには一人部屋があてがわれた。以前も男女二人で一部屋というのはクララでも経験があるが、それでもレオンは美少女と同室で寝起きとなると落ち着かない。


「ねえ、レオン」


 床に寝転がっているニナが急に問いかけてきて、考え事をしていたレオンを驚かせた。


「何?」

「あのさ、思うんだけど」

「だから、何?」

「ジークリンデってめっちゃ強いじゃない?」

「ああ。あそこまで行っちゃうと、もう天下無双だけど」

「もし、うちの小隊に補充要員として配属されたなら、うちら最前線に送られるのかな?」

「最前線って、敵の?」

「敵しかないだろ」


 戦闘が素人の集団である討伐隊だから、強い者が先頭に立たされるのではないかという懸念だ。確かに、強い奴が前面に立って敵をバッタバッタと倒してくれないかと期待されるだろう。


「いいのか?」


 問いかけるニナの顔は不安に満ちている。その真意が分からないレオンは、不安を払拭してやろうと、明るく振る舞った。


「俺を心配しているんだろ? 大丈夫だ」

「その大丈夫だという根拠がわからない」

「毎日練習して鍛えるから」

「いや、いきなり明日から敵の本拠地を叩けって言われるかも知れないじゃない?」

「こないだだって二人で脱出できたじゃないか? 乗り切っただろ?」

「それは逃げただけで、相手に勝ったわけじゃない」


 レオンは、『それでも大丈夫だ』という言葉を飲み込んだ。よく考えると、ニナの懸念が何かわかったのだ。


 それは、自分が敵に捕らえられる懸念だ。


 今の実力では、用心棒クラスには歯が立たない。


 ニナやジークリンデが破竹の勢いで敵を倒しても、自分が捕らえられて「手を引かないとこいつを殺す」と言われたら、そこで二人の攻撃は止まってしまう。


 敵は勝つためならどんな卑怯な手でも使ってくるだろう。


 特に、シュナイダーは魔界に自分を誘っている。連れて行こうとして、真っ先に自分を捕らえることを考えるだろう。


「ニナ。わかったよ。俺があの用心棒に拉致されるのが心配なんだろう?」

「そうだよ」

「でも、それは他の討伐隊の連中も同じだ。誰かが拉致されて、『手を引かないとこいつを殺すぞ』と言われるのと、俺が言われるのと同じだろ?」

「そうだけどさ……」


 ニナが悲しそうな顔になる。


「心配してくれるのは嬉しい。でも、これはマリアさん達の敵討ちだ。俺が戦いに参加しないでニナやジークリンデの活躍を後ろで見ているなんて、出来ない」

「でも……頼りになるのは、支えてくれるのは、レオンだけなんだよ……」


 涙を浮かべるニナが俯いた。


 どうやって説得しよう。


 ニナとジークリンデだけの特別な小隊を編成してもらって、最前線で奮闘してもらうか。


 自分だけ、安全なところに引っ込んでいて。



 ――そんなこと出来るはずがない。



「気持ちはわかった。でも、俺はニナとジークリンデと一緒に戦うよ。その方が頑張れる気がするんだ」

「…………」

「でも、小隊の編制は俺たちが決めることじゃない。もし、俺が別の小隊に組み込まれたら、それは断らずに受けるよ」

「……わかった」


 納得した様子は見られなかったが、とにかくニナは床の上に横になってレオンに背を向けた。



 翌日、ジークリンデが御者台に乗った竜車に揺られて、レオンとニナはミッテルベルクへ向かった。ハロルドは、伯爵の手紙が来るのを待つとのことで同行はしなかった。


 昼頃にミッテルベルクへ到着し、討伐隊を募集している役所へ向かうと、担当者はアダルヘルムから話を聞いていたらしく、あっさりとジークリンデを採用した。


 ちょうどそこへ、指導者ハンスが現れた。


「おお、レオンにニナか。そして、そこにいるのが人形か?」

「ジークリンデと申します」


 ジークリンデがハンスに頭を下げる。ハンスが彼女の頭から爪先までジロジロと眺めた後、


「早速だが、第5小隊に配属だ。これで五人が揃った」

「五人?」


 レオンは悲しそうな顔をするニナと無表情のジークリンデを見て、それからハンスを見た。


「三人しかいないはずだが」

「二人が補充されたのだ」

「なかなか集まらないと聞いていたが、来たんだ」

「ああ。二人は練習場にいるから、今から顔合わせをする、一緒に来い」


 ハンスの案内で練習場へ行くと、槍の練習をし終えたらしく地べたに腰を下ろして後ろを向いている金髪の女性のところへ案内された。


「アケミ。第5小隊の仲間を紹介しよう」


 レオンは、アケミという名前にビクッとした。アケミは金髪だが、頭のてっぺんは黒髪が見えていたはずだ。でも、今目の前にいる彼女の頭は完全に金髪だ。別人のアケミなのだろうか。


 ハンスの言葉に女性が振り返ると、レオンは驚きの声を上げた。


「アケミじゃないか!」


 間違いない。花屋の店員のアケミ・トーゴーだ。


 すると、アケミは目を丸くして、びっくり箱の人形のように跳び上がる。


「うわぁ! ビックリしたぁ! レオンじゃない!」

「アケミ、髪の毛どうした?」

「ああ、これ? ミッテルベルクで毛染めをみっけたので、早速使ってみたの」

「いやあ、分からなかった」


 アケミが満面に笑みを湛える。


「久しぶりね、レオン」

「ああ。まさかここで会えるとは」

「ほんと。あれから全然見かけないから心配してたの」

「ごめん、いろいろあって」


 ここでハンスが咳払いをして二人の会話を中断させる。


「もう一人は、どこへ行った?」

「そこにいますよ」

「どこに?」

「レオンの後ろ」


 アケミがレオンを指差すので、ハンス以下四人が後ろを振り向いた。


 レオンの真後ろに、右手を肩の高さに挙げてニヤけている少年がいる。彼の顔を見た途端、レオンは跳び上がるほど驚いた。


「お、お、お前は!?」

「やあ」

「なぜここにいる!?」

「なぜ? あの後、王宮を追い出されたのさ。超絶凄いのが召還されたんで」


 そう言って笑う彼は、レオンにとっては忘れることの出来ない憎き少年――ギルガメシュであった。

序章をお読みくださいましてありがとうございました。

新生第5小隊の活躍は、続編の「魔界編」となります。

他作品執筆中のため、お待ちください。

これからもよろしくお願いいたします。

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