2.二度の儀式
「……きろ」
『闇の中で声がする……。誰だ?』
「起きろ」
『ということは、俺は寝ているのか?』
レオンは、耳元で誰かが自分に声をかけて起こそうとしていることにようやく気づき、おもむろに目を開けた。
「やっと、目覚めおったな」
エンマの皺だらけの顔が迫っていたので、レオンは驚いて見せた。
「何驚いておる?」
「いやー、唇を奪われるかと思って」
「おお、その手があったか」
「マジでやめてくれ」
「惜しかったのう」
「気持ち悪いから、マジで勘弁」
「素直じゃないのう」
上半身を起こしたレオンが溜息をつく。
「フーッ。アイルビーバック。……いや、アイムバックか」
「何じゃそれ?」
「で、俺、どのくらい寝ていた?」
「倒れてすぐじゃが」
「嘘だろ? 一時間くらい気を失っていた感じなのに」
「なぜ、寝ていて時間が分かる?」
「さーせんした」
立ち上がったレオンは尻や背中をパンパンと叩く。
「それで、うまくいったのか?」
「何がじゃ?」
「あのねぇ、魔法を伝授してくれたんじゃないの!?」
「聖なる石が何をどう伝授したかまでは分からぬ」
「あんた、藪魔術師!?」
「人それぞれ、特性に応じて伝授される魔法が決まるのじゃ。まさに神のみぞ知る」
「無責任極まりないな」
腕組みをしたレオンは、石をジッと見つめていると、
「なあ、二回触ったらどうなる?」
「知らぬ」
「言うと思った」
それから石の方へ近づいて、左手を伸ばす。すると、今度は耳鳴りがしないで、普通に触れることが出来た。
「何だ、終わりなのか。何も感じないぞ。残念」
触れたついでに石の表面をなで回す。
「こーんなことしたらどうなる?」
「何をやっておる。ベタベタ触るな」
「二倍伝授されないかなぁっと思ってさ。どうせ、知らぬって言うんだろうけど」
「うぬぬ……」
「つまんないなぁ。右手で触ってみようかな?」
今度は左手を石の上にいたまま、右手を伸ばす。すると、あの耳鳴りが再来した。
「おっ! なんか来たっぽい!」
「何を楽しんでおる? こんな奴は初めてじゃ」
「初めて? なら、第一号と行こうか」
レオンが右手を石に触れると、それが石に張り付き、再び全身に電流が走る。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「呆れた奴じゃ……」
「来てます! 来てます!」
「勝手にせい」
そのまま30秒ほど痺れていたが、二度目は気を失うことはなかった。痺れが収まったレオンは深呼吸をして両手を離す。
「うむ。強くなった気がする」
「適当なことをぬかすでない」
「何をどう伝授したかまでは分からぬって言ってなかった? 適当なことって言う奴が適当じゃないの?」
「…………」
「あれぇ? ぐうの音も出ないってか? ……それより、早速ですが、魔法を試したいんですけど」
「じゃあ、付いてこい。指導教官に会わせてやる」
「なんか体育指導みたい。楽しみだな」
「とことん、おかしな奴じゃ」
肩をすくめて歩き始めたエンマの後ろを、レオンは鼻歌交じりに付いていった。